第16話 ゲームは続いている

「杉森先輩……ですよね?」


 わたしが訊くと、高速でドリブルを続ける杉森先輩はやたらとハイテンションで答える。


「お前ら何やってんだ。試合はすぐそこまで迫ってるんだぞ。練習しろよ!」


 そう言いながら杉森先輩は目にも止まらないスピードであっちこっちへと高速移動を繰り返す。ドリブルしながらこんな動きができるのだから、当時は相当なバケモノ中学生として扱われたのだろう。


「残念ながら、わたし達は選手じゃないんです」

「ん、そうなのか。まあいい。お茶も出せないけど、ゆっくりしていけよ」


 そう言って杉森先輩は流れるようにコートを動き回ると、後方に飛びながらスリーポイントシュートを放った。放物線を描くボールは、ゴールのネットにスポッと入った。


「すごい……」

「まだまだこんなもんじゃないぞ。全国にはもっとすごい奴らが控えているからな。練習し続けなくちゃ」


 そう言ってちょっとテンションがおかしめのイケメンは落ちて来たボールをさらうように拾って高速ドリブルを再開する。


 それを見て確信した。この先輩は、何十年という時が経ってもずっとバスケの試合を続けているままなんだと。


「どうすればいいんだろう?」


 わたしは思わず三橋に訊く。彼は亡くなった今でも、自分の愛したスポーツを真剣にプレーし続けている。そんな人(?)に「あなたは死んだんですよ」と伝えることが、本当に正しいのだろうかという気持ちになってきた。


「判断が難しいね」


 三橋がわたしの心を読んだように言う。彼でもこの幽霊をどのように救うべきなのか判断に迷うようだった。


「いったん帰って作戦を練り直そうか」


 三橋が小声で言ってくるのに、わたしは無言でうなずく。このまま強引に「お前は迷惑だから出ていけ」と言っても、安東先生の親友を傷付けるだけで終わるだろう。そうやって彼をここから追い出すのは違う気がした。


 杉森先輩と交渉して別の場所へ行ってもらうという手もあるはある気がするけど、安東先生にとって彼の事故が心の傷になっていることもあり、都合の悪い存在をただ外へ追い出すというのは正解ではない気がする。そうなると、何が正解なのか。


 結局すぐに解決策を思いつかないので、いったんは帰って今後の作戦を話し合うことにした。


「じゃあ杉森先輩、わたし達は帰りますね」

「おう、また来いよ!」


 相変わらず高速でドリブルしながら言う杉森先輩を見て、思わず笑ってしまった。本当にバスケが好きだったんだな。


 きっと彼は、まだ死んだことにも気付いていない。彼には、それなりにふさわしいゲーム終了の方法があるはずだ。


 だからこそ、わたしが勝手に彼のゲームを終わらせてはいけないと思った。

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