太陽を直視し続けたら、太陽が黒くなった
黒く輝く太陽を見た。
太陽を長時間見続けると、太陽が黒くなる。
比喩ではない。実際にそう見える。小学生のころ、わたしはそれを体験した。
太陽を一瞬でも直視すると、視界に黒い斑点が浮かぶ。あの「焼かれた」感覚は、たぶん多くの人が知っているはずだ。目をそらしても、黒い点はしばらく居座り続ける。
あの状態をさらに続けると何が起きるか。黒い点が少しずつ広がり、やがて太陽そのものを覆いつくす。太陽が黒く輝いて見える。眩しさは消え、なぜか落ち着いてしまう。
小学生のわたしは、「太陽に勝った」と思った。
後年知ったのだが、太陽の直視は6秒で取り返しのつかない損傷を与えることがある。
2017年、38年ぶりに皆既日食がアメリカ大陸を横断した。そのとき観測用メガネなしで肉眼を向けてしまった女性がいた。時間にして6秒。4時間後、視界が黒くぼやけるようになり、損傷は回復しなかった。米医師会の医学誌「JAMA眼科学」が論文として取り上げた事例だ。
たった6秒で、それが起きる。
わたしが太陽を見続けていたのは、休憩時間まるごとだった。6秒どころではなかった。
結果、何も起きなかった。
視力は下がらなかった。
中学になっても、高校になっても、大学になっても、ゲームをしても、暗い部屋で漫画を読んでも。いまも視力に問題はない。
なぜかはわからない。体質的に目が強いのか、それともただ運がよかっただけなのか。
ここで「だから太陽を見ても大丈夫」と書けたら、この話は気持ちよく終わる。でも、そうは書けない。
「何ともなかった」は「安全だった」と違う。
6秒で網膜が損傷した人がいる。わたしは同じことをして何ともなかった。その差は何か。体質か、距離か、その日の雲の具合か、ただの確率か。いまも答えはない。
「何ともなかった体験談」は、「何ともない証明」にはならない。
そして視力1.5のままで中年になり、わたしは今「そろそろ老眼がはじまるんじゃ…」と怯えて暮らしているのであった。
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