エンドレス入学式 4
俺こと
そこに靴箱女と標識男を加えた5人パーティ。
目標は昇降口で靴箱の大きさを確認すること!
高校生活最初のミッションだ!
クソが。
靴箱女と標識男の名前は知らない。知らなくていい。俺たちだって名乗ってない。こんな連中に名乗りたくない。
嫌が応にもクラスメイト。いずれ知られる時は来るだろうが、今じゃなくていい。
「ほら! 大きいって! 靴箱大きいって!」
「うむ……。なんとなく見過ごしていたが、デカいぞこれは!」
昇降口に辿り着くなり、靴箱共が水を得た魚のように喚き始めた。
大騒ぎする二人に、今登校してきた生徒が「わぁ、近寄らんとこ……」みたいな渋い顔でそそくさと過ぎ去っていく。
不本意な目立ち方だ。俺の顔が覚えられていないことを祈る。
「地獄丸、どうだ?」
「いやぁ、どうって言われてもなー……。これは、どう見てもなぁ……」
地獄丸は面倒くさそうに頭を掻く。
これで地獄丸まで『靴箱がデカい』なんて言い出してみろ。パーティの構成が大変なことになってしまう。
俺と、靴箱と靴箱と靴箱と標識だ。
標識野郎は俺たちが靴箱に夢中と見るやフラフラとどこかへ歩いていってしまったが。
なんにしても、これ以上おかしな状態異常持ちが増えてほしくないない。
果たして、地獄丸の返答は。
「普通の靴箱だろ」
ああ、よかった。
スチール製の靴箱は縦横6マス。1マスは30センチ立方前後。各マスに簡素な蓋が付いている。何の変哲もない画一的な靴箱が、昇降口に一糸乱れず整列している。
それが俺と地獄丸が見ているものだ。
「嘘だ! 私なんてこれ入れるよ!? ほら! クソデカだよ!?」
「見ろ! こんなクソデカい靴箱見たことがあるか!? 天を貫かんばかりだ!」
そう声を荒げながら、2基の喋る靴箱はいかに昇降口の靴箱が大きいものかを力説する。
天は貫かねぇだろ。いくらデカくたってよ。
靴箱女はしゃがみこんで最下段に自分の片手を突っ込んで何か言っているし、靖武は自分の顎よりも低い位置にある最上段の蓋をガコガコ開け閉めしている。
その挙動は喜劇めいて滑稽なのだが、鬼気迫る形相に虚偽の色は見受けられない。
にわかには信じがたいが、本気で言っているらしい。
と、ここで地獄丸が耳打ちしてきた。何か分かったのだろうか。
「高校の入学式って薬物検査ねーのかな? こいつらの尿からぜってー何か見つかるぜ。ケケケ」
「…………ケケケじゃねぇよ」
……これ以上は時間の無駄だな。
俺は手をパンと打ち、
「よし、教室戻るか」
そう提案した。
靴箱共は口々に文句を垂れ、なぜか地獄丸も不服そうだが、手持ちの情報だけでは進展が得られそうにない。
「デカく見えてるのは分かったが、これ以上は後でいいだろ。入学式が終わった後にでもまた集まればいいさ。な?」
他にもクソデカ靴箱が見えた生徒がいるかもしれない。
もう少し調べたら何かが分かるかもしれない。
もしかしたら、何か知っている人がいるかもしれない。
だが、今は入学初日の朝だ。まだ時間に余裕はあるが、何をするにも今じゃなくたっていい。
そう説くと、引っかかりはありつつも納得してくれた様子だった。
……あとは入学式が終わった後、どうやってこいつらを撒くかだ。
「…………」
無言で俺の肩に手を置いた地獄丸がにっこり笑う。
逃がさねーよ?
彼女の目はそう言っていた。
なんでお前はこんなアホどもに付き合う気マンマンなんだよ……。
「――じゃ、帰るか」
俺たちは教室へ戻ることにした。
結局何も有益な情報は得られず、新たな級友と交流すべき貴重な余暇のロストが確定しただけだった。
不毛だ。先が思いやられる。
「む!」
と、靖武が声を上げた。
今度はなんだ? もうよせ。
俺はもう限界だ。
「そういえば、彼は?」
「彼?」
「ほら、いただろう。しきりに標識を気にしていた彼だ」
「そういやいたな……頭標識野郎……」
完全に忘れていたが、この冒険は5人で始めたものだった。
普段なら心底どうでもいいのだが、こちらが『一部生徒には、本当に靴箱がクソデカく見えるようだ……』という曖昧な落としどころに着地してしまったため、あちらの様子には少し興味があった。
何か情報が得られたか、我々と同じく軟着陸したか。
体育館側の廊下と言っていたな。階段に向かって左手側の通路の方向だ。
靴箱正面がすぐ階段のため、教室へ直行した登校時はわざわざ視線を送ることさえなかったが――
「…………え?」
俺たちは見た。
視界の先で、壁にもたれ掛かって座る標識男。
深く項垂れていて、その表情を伺い知ることはできない。
一目でただごとではないと分かる異様な空気が、通路の向こうに立ち込めていた。
「あんなとこで何してるんだろ?」
「……はて? 彼は標識を探していたのでは?」
靴箱女。続いて靖武が首をかしげる。
そうだ。標識男は何もないところで座り込んで、沈黙している。
せめてそこ姿がなければ、『では標識はもっと奥まった場所にあり、彼もそこに向かったのだろう』と考えられた。
彼が標識も何も無い場所で座り込んでいるのならば、なるほどこれは奇妙なことだ。
ふたりが違和感を覚えるのも納得だ。
だが、彼らが標識男が『そこ』にいることに疑問を抱いたことが、俺には理解できなかった。
つまるところ、見えたのだ。
見えないはずの物体が。
「どうやら、俺の頭は標識だ……」
『止まれ』と白抜きで書かれた赤い逆三角形と、床から生えた白い支柱。
屋外で飽きるほど見た物体が標識男の真横に鎮座しているのを、俺の目は確かに捉えていた。
ああ、クソっ。俺も状態異常持ちだったか。
続いて、地獄丸が眉間を抑えて呟く。
「…………私もだなぁ」
パーティは全滅した……。
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