第十五話 死骸
「声か」
「らしいです。文学部棟の自習室ってあんまり人いないみたいですけど、前から変な噂があったとか、そういうことは特に」
ところ変わって幡野教授の研究室、報告の時間である。戸澤は真紘の差し出した報告書を片手にふうん、と小さく唸った。
「声が写真に写るものかな」
などとぼやきつつ、報告書を矯めつ眇めつしては首を傾げる。
「あの、あれってやっぱり、心霊写真……的な」
「うん?どうだろうな」
おずおずと真紘が尋ねてみると、戸澤は腰掛けた椅子の上で軽く伸びをした。
「物事はただそこにあるだけで、それに言葉による意味づけを行うのはいつも人間だ。例えば妙なことが起きて、たまたまその写真を撮って記録することができたとする。しかし、記録に残ったものはただの過去でしかなく、言うなればその瞬間の経験の死骸みたいなものだと俺は思っている。言葉や絵、写真によって語られる経験が何かの死骸だとしたら、ここには数多の死骸が眠っていることになるが」
言いながら、眼鏡のレンズの下から視線で研究室の奥の書庫を示す。真紘も釣られてそこへ目を向けた。薄暗い書庫の古びた紙特有の匂いが、急に強くなった気がした。
「それでも語り、何かの形で遺そうとすることを手放せない俺たちの業を取り扱うのが、民俗学だとかの領域なのかもしれないな」
そこで言葉を切って立ち上がると、戸澤は机の引き出しから先日のポラロイドカメラを取り出した。
「四階の自習室ならすぐそこだから、ちょっと行ってみるか。上手くいかなければすぐに帰ってこられるし、丁度いいだろう」
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