行き詰まる科学技術

刻堂元記

評論:行き詰まる科学技術

 今、世界は生成AIに熱狂している。だが同時に冷めてきてもいる。故に、そろそろ次のイノベーションが私たちを夢中にさせてくれるはず。そんな期待はどこか、まだ名もない非現実となりつつある。日夜行われる研究や開発。或いは実験を経ているにも関わらず、なぜそうなってしまうのか。原因は個人単位では解決不可能な、複合的な問題が複雑に絡んでいるからだ。


 では何が、イノベーションを阻んでいるのだろうか。最大の理由とも言えるのが予算の不平等配分だ。つまり政府が、国益に適う研究領域か、分かりやすく実績のある研究者にしか予算を配らない。短期的な結果重視、効率主義に基づく姿勢が、社会的な発展の停滞を招いていると考えられる。常識を覆す発明は、意図して実現できるモノではない。偶然の賜物だという事実を再度、思い出す時期に来ている。


 ならば、予算を公平に分ければいい。誰もがそう思うだろう。では実際、充分な資金があればイノベーションは加速するのか。この問いに対し、肯定的な返事も、否定的な回答も返せる。イノベーションの結果は、国家の威光次第だと考えていい。現行法に背かないか否かは、主要な理由の1つとして並ぶ。


 イノベーションの源は何も、研究者の頭の中から生まれるとは限らない。SF創作者の作品からも応用が可能だ。とはいえ、科学技術それ自体を主題に置く作品は希少な為、SFをそのまま発明に繋げるといった行為は困難を極める。過程を飛ばした未来科学、過去の失われた技術、解明不能な力など、その他要素の主張と引き換えに、触れる者の考察に任せる方法は知ってか知らずか、広く浸透した。


 混じり気のない科学技術の功罪を、未来軸から見通す。この機会の少なさが、イノベーションの発生を確率的に下げた新たな犯人として挙げられる。商業化の高まりと相まって直ぐに理解できる話の単純さ、衝撃さ、そして派手さがSFの売りに変化したのは潜在的な欲求に合わせた結果に違いない。


 更なる要因として、予算、法、SF作品の次に、利益の強要も、これらと同様、社会の発展を阻害する壁になっている。利益の強要とは金銭、または軍事転用の許可。この何れにも適さない科学技術は無用扱いされ、瞬時に墓場行き。継続的な支援が無ければ研究の中断、白紙撤回もあり得てしまう。ビジネスや国家事業とは無縁の好奇心が蔑ろに。金儲けが中心と化すのはもはや自明の事。


 しかし、現状を列挙しただけでは全く進展しない。既存の枠組みの大幅な改善が求められる。私からの提案は主に2つ。免税を条件とした寄付文化の普及。加えて制限の緩和だ。ここで読者から幾つかの疑問が投げられる。公平な予算配分を挙げないのは何故か。制限の緩和とは具体的にどんな物か。


 最初に前者から答える。予算の公平配分は一見、尤もらしい答えだ。けれども公平な配分は理想的に見える反面、重大な欠陥を抱えている。どこまでの範囲の人々を研究者と見做し資金を与えるのか。前提の定義づけが曖昧なまま進められやすい。


 そこで、敢えてこの不平等を放置する。免税付きの寄付に舵を切る。すると研究者は国の気分に左右されない活動も選択肢に入れられる。


 その為に研究者は、多額の資金を集めなければならない。当然、一部の人々は寄付を理由に形あるものを要求する。この際、最も避けるべき行動は寄付額以上のお金を渡す事。これは本来の目的を制度毎狂わせ、ルールを書き換える行為なので法的に禁止すべきだろう。代わりに研究者は不定期に、進捗報告やレポート等の、後悔しても差し支えないデータを渡す。まさに私の理想に近い関係性だ。


 次に、後者の質問にも返答を用意しておく。制限の緩和の中身に関して、私が想定しているのが法的な自由の保障と、表現の自由の拡大。どちらも当たり前に聞こえてもおかしくはない。だが、独裁政治や、宗教色が色濃く出る国々では、これら自由に不自由を感じ得ない程の制限が伴う。


 ともあれ、世界規模で法的な自由や、表現の自由が広がるなら、イノベーションの偶発性を上昇させる上で、望ましい在り方ではなかろうか。


 資金の不足。政治情勢。その他様々な事情で、夢半ばに研究を諦める人が少なからずいる。これはイノベーションという意味でも、公共の利益という観点からも非常に勿体無い事実と受け止められる。しかし、国家支援に依存しない環境を定着させれば、研究者は今以上に安心して研究に没頭できる。もしそうなれば、世間を賑わすイノベーションが日常的になるのも夢ではない。好きを原動力に生きる、彼らの探求心を、可能性を私はこれからも信じ続ける。

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