水仙が咲き誇る都市エラムで行われる「花祭り」から立ち上がる本作は、宗教と人間関係の間に潜む、微妙な緊張感を丁寧に描き出していきます。
そして「血が抜かれた変死体が出ている」という不穏な噂の広がりによって、一読者として冒頭から一気に物語へと引き込まれました。
その後、物語は不可解な事件と権力者の介入へと展開していくのですが、吸血鬼や神官といった設定を含め、物語の設計が緻密に組み上げられていることがよく分かります。
特に印象的だったのが、第3章の「肉の人形」の回です。
連続殺人事件の真相を追う中で、娼婦たちが置かれた搾取と孤独の残酷な現実が描かれ、その背後にある巨大な権力構造が見えてくる展開には、ゾクリとするような興奮を覚えました。
そうした心地よい謎が散りばめられたミステリーであり、同時に濃厚な政治劇は、とにかく読み応え抜群です。
本作は『エルアーム国綺譚』シリーズの2作目にあたり、私は1作目を拝読していないのですが、それでも物語が持つ圧倒的な求心力と世界観の奥行きには、強く胸を打たれました。
主人公、深璃の魅力はもちろんのこと、登場人物たちの造形が素晴らしい。
確かな筆力によって築かれた本作の魅力を、ぜひ堪能してください。