第17話 ノエル

 翌日の朝、オーレリアは温室にいた。

 エイラから種を貰ってすぐ、足の速い先生(名前は未だ不明)に、太陽の国の植物を育てたいとお願いすると、すんなりと使用許可がおりたのだ。

 授業でたまに使う程度なので、手入れをしてくれるなら、むしろ歓迎との事。


 これから毎朝ここに来れる!

 もっと早く頼めばよかった!


 オーレリアはすこぶるご機嫌、鼻歌混じりである。

 太陽の国の植物は、熱い土地に相応しい植物が多かった。「プルメリア」「ココヤシ」「サボテン」……

 ココヤシは実があるから、放課後取りにこよう! どんな味だろう? サボテンは花が咲いた。花は初めて見た!

 これは楽しい。


「オーレリア、そろそろ授業の時間だぞ?」

 レックスが呼んでいる。

「うんーー、もうちょっと……」

「いやいや、間に合わなくなる!」

 渋々立ち上がるオーレリア。

「やっぱり、鍵、私が預かるって、少しでも長くここに居たいし、毎回レックスに頼むのもめんど……悪いし」

「今面倒って言おうとしただろ? ダメ、俺が管理するって決まったんだから。それに、オーレリアに持たせたら温室から出てこなくなるだろ?」

「そんなこと……」


 あるかも知れない。


「ほら行くぞ」

 レックスがオーレリアの手を掴む。

「でもレックスはいいの? 私とここに入り浸ってたら、またコソコソ言われるよ?」

「そんなの言わせとけばいい」

 前を向いたまま、手は離さない。


 予鈴が鳴る。

「やばい!」「走ろう!」

 二人は教室へと駆け出した。


 ーーーー


 授業終わり、エイラと共に図書室へと向かう。エイラは本が好きらしい。

「どんな本が好きなの?」

 オーレリアが訊ねると、エイラは水を得た魚の如く話し始めた。

「私、何でも読むんだけどね、今一番好きなのはホラーなの! あのゾクゾクする感じがいいのよね! 絶対にそんな事ないって思うんだけど、ぶわって鳥肌が立つ感じとか、後ろが気になる感じが、もう楽しくて……」


「ほぇ〜」


 よく話すと思っていたけど、いつも以上だ。そして、ホラーの楽しさはよく伝わってきた。

「私、呪文の本でも借りようかな!」

 エイラと別れて本棚を見上げる。


 あの、上にある本、気になるな……取れるかな?


 オーレリアは背伸びして手を伸ばす。足が吊りそうだが……


「無理、か」


 膝に手を置き、息をつく。


「この本が欲しかったの?」

 上から声が降ってきた。

 顔を上げると、長身の銀髪姿の男子生徒が本を持っている。

「どうぞ」

 わざわざ取ってくれたらしい。

「ありがとうございます」

 お礼を言うオーレリア。


 どこかで見た事あるような……?


「お兄様? どうしたの?」

 エイラが男子生徒に話しかける。


 お兄様?


「届かない本を取っただけさ。この方がオーレリア姫か」


 エイラの兄って、第一王子!


「しっ失礼しました。私はオーレリア・セイブル、妖精の国から参りました。エイラ様とは仲良くさせていただいております」

 急いで挨拶をする。この国の第一王子ということは、将来の国王という事だ。


「僕はノエル・ラグーナ、この国の王子であり、エイラの兄です。オーレリア姫、そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ」

 ノエルはそう言うと、少し垂れ目な優しい微笑みを浮かべた。


 うむ、エイラに似ている。


「この前の、太陽の船を止めた魔法は凄かった! ぜひこの国で、その力を発揮してほしいね!」


 それ、国王も言ってなかったっけ? やはり家族である。


「お褒めいただき、光栄です」

 オーレリアは軽く頭を下げて下げる。

「そんなに固くならないでほしいな。僕の事は、友達のお兄ちゃん的位置付けでお願いしたい」

 ノエルがオーレリアを覗き込む。

「そうですか? 分かりました」

「よかった! それじゃあ、また」

 手を振って去っていく。案外フレンドリーなタイプらしい。


「エイラと似てるね!」

「うふふ、よく言われるわ」


 図書室から出た所で、オーレリアは思い出した。

「そいえば、ヤシの実食べてみようと思ってたんだ! エイラも食べる?」

「いいの! 食べてみたい」

「鍵借りに行こう! レックスどこかな?」

「レックスが鍵管理してるの?」

「うん。決めたんだから自分がやるって」

「ふぅーん?」何でも達観しているレックスが?


 廊下を歩いていると、職員室の入り口でレース先生に遭った。

「オーレリアさん、丁度いい所に。ちょっといい? お願いがあるんだけど」

 レース先生が声をかけて来た。

「はい。何でしょう……?」

 初日にもレース先生の呼び出しを受けて、大変な緊張をしたオーレリアは警戒している。


「そんなに身構えなくても大丈夫よ? 林の辺りをね、ちょっと直してほしくて……」


 そういえば……


 太陽の国の船を木で捕まえた後、オーレリアも力を使い果たしてしまったし、あの船はエネルギーがなくて動けない。

 よって、そのままの状態でオブジェになっていたのである。


「そろそろあの船、太陽の国へ返したいんだけど、木の力が強すぎて取れないのよね」

 そういえば、グレイスが強力に術をかけていた。

「分かりました」

 ヤシの実は後回しになった。

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