OK牧場

 駅馬車道を西へ突き進むと、砂嵐の先に小さな町があった。


 娯楽といえば、酒とポーカーと、たまに来る巡業ショーくらい。

 そんな町に、ある日、見知らぬ娯楽施設ができた。


 看板には、こう書かれていた。


「入場無料。どなたでもご利用できます」


 中には、同じ台がずらりと並んでいた。

 客は台の前に座り、画面を「上から下」になぞる。

 すると、絵が変わった。


 たったそれだけだった。

 だが保安官も、牧場主も、ダイナーのオーナーも、お目当ての絵を見たさに列を作った。


 そんなある日、サルーンの看板娘が悲鳴を上げた。

「ちょっと、この絵……町長じゃないの?」

「相手、巡業の歌い手でしょう」

「どうして二人で、モーテルにいるの?」


 周囲がざわつき出すと、支配人がさっとやってきて言った。

「単なる絵でございます」

「どうぞ、ご利用をお楽しみください」


 その言葉で、客たちは何事もなかったように台へ向き直った。


 それから町の者たちは、ごくまれに現れる“当たりの絵”を求めて、無我夢中で画面を上から下になぞるようになった。


 愛妻家で知られる銀行家が、若い未亡人と寄り添う絵。

 牧場主が、納屋の陰で牧童を殴りつけている絵。

 牧師が、酒場から酒を盗む絵。

 保安官が、押収した金貨袋を隠している絵。


 どれも本物かどうかは分からなかった。

 だが、似ていれば十分だった。


 町の者たちはそれを見つけては、サルーンで語り合った。

 やがて町では、絵を見ることより、絵について語ることの方が娯楽になった。


 怒る者。

 悲しむ者。

 認めない者。

 救いたいと言い出す者。


 それでも町の者たちは、仕事終わりにその施設へ寄らずにはいられなくなった。


 そんなある日、台の絵に、サルーンの豆料理やゼネラルストアの缶詰が混じるようになった。その絵だけは、三秒見なければ次へ進めない。


「サルーンの豆料理なんぞ喰い飽きた」

「ストアの商品は都市よりも五割も高い」

「三秒は長すぎる」

「邪魔をするな」


 客たちは口々に文句を言った。

 それでも三秒たつと、きっちり次の絵へ進んだ。


 最初、絵は誰にでも同じだった。

 だが、三秒待つことが当たり前になったころ、台は客を勝手に覚えた。


 暴力の絵で長く止まった者には、暴力の絵が増えた。

 不倫の絵で長く止まった者には、男女の絵が増えた。

 不正の絵で長く止まった者には、不正の絵が増えた。


 その結果、サルーンでの語り合いがさらに熱を帯びた。

 それを見ていた支配人は、施設の壁に掲示板を作った。


 台の絵を見れば、利用者には感想を書き込める。

 それを掲示板に張り出せる。

 反応のいい感想を書いた者には、支配人からバッジが贈られた。


 そのバッジをつけて町を歩けば、一目置かれた。


 ある日、流れのカウボーイが支配人に尋ねた。

「あの台は、馬を飼い慣らすように、人を支配でもするのかね?」


 支配人は、首を振った。

「いいえ。そんなことはできません」

「こちらは、みなさまが見たい絵をお出ししているだけでございます」


 カウボーイは、台にかじりつく町人たちを眺めた。

「では、なぜ誰もやめられない?」


 支配人は、誰に聞かせるでもなく言った。

「みなさま、自分の意思で選んでいるつもりですから」

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