第5話 変わった結末

夕食が終わる。


サーモンのバジルサラダと、カレーライス。

味も、会話の流れも、皿の並びまで。


すべてが、記憶通りだった。


明は食器を流しに運び、テーブルを布巾で拭く。


いつもと同じ作業のはずなのに、自分の意思で動いているのか分からなくなる。



(……同じだ)



父はリビングに置かれた土産袋の一つを手に取り、テーブルに広げる。



「さぁ、お土産タイムだぞ。今日はなんと、最近流行りの——」



「いちごとホワイトチョコのクッキーだろ?」



箱を取り出す前に、明は言った。


一瞬、空気が止まる。



「……よくわかったな」



父の視線を受けながらも、明はそれを避ける。


代わりに、壁の時計へと目を向けた。



(19時35分……そろそろか……)



「ありがとう〜!これ食べてみたかったの!」



嬉しそうな声。


藤野彰子、明の母。元々は高校教師だったが、今は専業主婦をしている。



「テレビでやってるの見て、気になってたのよ〜」



母は欲しい土産があると、父にリクエストして買って来てもらっていた。



「ん。センスいい」



いつものやり取り。

いつもの声。


母と姉は箱を開け、クッキーを人数分に分けていく。

この時間は、藤野家にとって小さな楽しみの一つだ。


——本来なら。


明は落ち着きなく足を揺らしながら、何度も時計を確認していた。



「なんだ明、さっきからソワソワして。クッキーいらないのか?」



父の言葉と同時に、




スー……




玄関のドアが開く音がした。



(……来た)



明は立ち上がり、そのまま玄関へ向かう。



そこには、靴も履かずに外へ出ようとする祖母の姿があった。



「ばあちゃん、どこ行くの?」



慌てて腕を掴む。



「止めないでおくれ!じいさんが、じいさんが帰って来た!」



「……ばあちゃん、じいちゃんはもう、いないんだって……」



背後から、廊下を走る足音が近づいてくる。



「お手柄だ明!助かった!」



「もう、貞さん……これで4度目よ?」



「はぁ〜」



三人が駆け寄り、祖母を宥める。


藤野貞。明の祖母。

10年前、祖父を亡くしてから認知症が進んだ。


外へ出ようともがく祖母を、皆で支えながらリビングへ戻る。


時刻は19時40分。



(前は……外に出たまま帰ってこなくて……警察に連絡したんだっけ……)



胸の奥に、わずかな安堵が広がる。


——変えられた。


そんな感覚が、確かにあった。



もがいていた祖母の動きが、ふと止まる。


力が抜けたように、俯いた。


そして、小さく呟く。



「悪魔が……悪魔がやってきた……」



「——え?」



祖母の言葉に耳を疑う。



「ばあちゃん、今——なんて……」



問いかける。


だが、祖母は何も答えない。


ただ、どこか怯えたように視線を落としたまま、動かなかった。

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