第46話 敗北の代償と勝者の栄光
「卑怯ですわーーっ!!」
開口一番、気絶から回復したベリラ王女が叫んだ言葉はこれだった。
「あんな強力な従魔なんて反則ですわ!!」
まぁそう言いたい気持ちはわかる。カッシーめっちゃ強かったもん。
有利フィールド作って無双とか、どこでもギミック作成ボス過ぎて自分で言うのも何だけどズルいなって思ったくらいだ。
「でもまぁ従魔アリルールにしたのは姉上なのじゃ」
「それでもそっちは従魔ばかり活躍していたではありませんか!!」
「そんな事はないのじゃ。ちゃんと前半は兵達も戦っておったし、後半の水没したフィールドでは水中戦からの上陸して攻城戦をしておった。カッシーの活躍が大きかったのは認めるが、我が家臣達の活躍をないがしろにしてもらっては困る」
実際プレイヤー達は劣勢でも頑張って勝ちの目を探してくれていたし、フィールドが変化した時にはいち早く適応してカッシーのアシストを活かしてくれた。
「寧ろベリラ姉上の部下の方が状況に対応できないでいた事が問題ではないかの?」
「そ、そんな事は! わたくしの可愛い部下達が弱いわけないでしょう!!」
「姫様!!」
「不甲斐なくて申し訳ありません姫様!!」
おや、意外と部下には慕われてるのかな?
「とにかく! 王族がまともに戦わずに決着なんてありえませんわー! わたくしと貴女で一対一の決闘ですわーっ!!」
そんな無茶な。
『愚か者っっっっっ!!』
その時だった。天をつんざく落雷のような声が闘技場に響きわたった。
「こ、この声は!?」
『我が名はザルマルク=ゼア=オーヴァロド! 魔王である!!』
「お父様!?」
まさかの魔王登場!?
いや王都だし闘技場に居てもおかしくはないのか!?
「陛下だ!」
「魔王陛下だ!」
一斉に審判や観客達がひれ伏すのを見て、俺も慌ててひれ伏す。
「ヒメキ、皆にひれ伏すように伝えるのじゃ!」
「っ!? はっ!!」
「カッシー、わらわの真似をして頭をさげるのじゃ」
「クォン」
ヒメキからパーティ通話を受けたプレイヤ―達も慌ててひれ伏し始める。
驚いて棒立ちになっているのはベリラ王女只一人だった。
『余はお前達の試合を見ていたぞ!! マルシェラ見事な勝利であった!』
「はっ! ありがたきお言葉でございます魔王陛下!!」
『それに比べてベリラ、なんだお前の体たらくは!!』
「そんな! 酷いですわお父様!!」
『馬鹿者っ!! 公私は分けぬか!!』
公共の場でもプライベートな振る舞いを見せるベリア王女を叱る魔王。
いやープレイヤーで良かった。ゲーム内の親子関係がどうにも馴染めてないから魔王には上司を相手にする気持ちで敬語を心がけていたんだよな。
社会人経験が活きたとも言える。
「も、申し訳ございません陛下」
慌てて膝を突き頭を下げるベリア王女。
「で、ですが陛下、マルシェラの戦いは従魔頼りのものです。現に従魔が出なければわたくしの戦略に敗北は必至でした! 王族として自らの力を示す事すらしておりません!!」
『愚か者め!!』
懲りずに口答えするベリア王女だったが、やはりというかなんというか魔王に叱責される。
『マルシェラが従魔頼りだと!? 愚か! あまりにも愚か!! マルシェラが従えたはカサータ湖を統べる水の王ウォータードラゴンぞ!! それを従えるは討伐よりも困難な道!!』
え? そうなん? なんか勝手に向こうから懐いて来たんですけど?
もしかして何か厄介なフラグ条件とかあったんだろうか?
『異議があるならばお前も王の資格持つ魔物を統べるべきであろう!! 貴血への覚醒で先を行っているからと油断したお前の不徳ぞ!!』
激しい音と共に落雷がベリラ王女の真横に落ちる。
「ひぃっ!?」
何だ今の!? 魔王の力か? だとすれば魔王は雷属性って事か?
……うん、絶賛水属性中の俺と相性最悪では?
『マルシェラは自らの力で従えたモンスターを戦力にしたに過ぎん! それはすなわちマルシェラの力を知らしめたも同義!! 故にお前の異議は通らぬ!!』
審判よりも立場が上の魔王に断言されてはベリラ王女もこれ以上何も言えずに黙るしかなかった。
『改めてマルシェラよ、よくぞ圧倒的不利な状況で勝利をもぎ取った。見事である』
「ははっ、ありがたきお言葉!」
『よいよい、ドラゴンを従えるなぞ数千年ぶりの快挙。余は気分が良い。後ほどお前には褒美を与えよう。そしてベリアよ、王位継承権の挑戦に負けたお前は対価を支払わねばならぬ。本来なら双方の交渉で決めるものだが、お前の不甲斐ない戦いを鑑み余が直接マルシェラに支払う対価を定める!!』
「そ、そんな!!」
あれ? そんな条件あったの? 初耳なんですけど。
『ベリアの管理するミスリル鉱山より産出量の半分をマルシェラの領地に半額で提供する事を命じる!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「「「「おおぉぉぉぉぉっ!?」」」」
魔王の沙汰にベリア王女が事件性のある悲鳴を上げ、観客席のみならず審判たちからもどよめきが漏れる。
ミスリル、ファンタジー作品の定番架空金属だ。
大抵性能が高く、ゲームにおいては頭一つ抜けた性能を持っている事が多い。
NPC達の反応を見ても間違いなく貴重な鉱石だろう。
『これにて王位継承権争奪決闘を終幕とする!! 民よ、此度の戦の結末を思う存分語りあかすが良い!!』
魔王の声が消えると、観客席が再びどよめきに包まれる。
そして我に返った係員達に指示され会場を後にするのだった。
残されたのは戦いを繰り広げた俺達、そして茫然とした顔で天を見つめるベリア王女。
うん、可愛そうだからそっとしておこう。
俺達は彼女を刺激しないよう、勝者とは思えない程静かに撤収したのだった。
◆
「まぁしかし、なんだかんだ言ってベリア姉上は普通に強かったのじゃ」
「だな。戦略の重要性を理解させられたぜ。まさか魔法にあんな使い方があったとはな」
「このゲーム変なところでリアルだなって思ったけど、ああいう使い方も出来るよっていう運営からの匂わせだったのかな?」
「あり得るな。まぁそんな知略も強力無比なモンスターの前には無意味だったのだが……」
「クォーン!」
うん、凄かったねカッシー無双。まさかあの状況から逆転大勝利になるなんて思ってもいなかった。
「負ける気はせなんだが、それでもかなりの被害を覚悟しておったんじゃがな」
すり寄ってくるカッシーを撫でながら俺達は今回の戦いの感想を語り合う。
「ですね。幸いそういった事を考える事が好きな者達が家臣団にいますから、彼等を加えて我々も戦略を練っていくことにします」
きっと歴史マニアとかだな。
しかし色々と学ぶことの多い戦いだった。
魔王核は戦って奪うだけじゃない、戦略は重要、そして従魔の強さは凄く重要と。
「クォーン」
「よしよし、頑張ってくれたカッシーの為にも今日はご馳走を用意するのじゃ!!」
「クォーン!」
ご馳走と言われてカッシーが嬉しそうに吼える。
という訳でこれからモンスター達を歌で魅了してカッシーのご飯にする作業が始まります。
「なんかマルスくんちゃんすっかりセイレーンみたいになってるよね」
「歌で船乗りを惑わす美しき魔物セイレーンか。ふむ、絵になるな。そんな姫の歌声に惑わされる騎士……くっ!」
なんかヒメキがウットリしてるが放置放置。あれは救えぬ生き物じゃ。
「姫ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そんな風に今後の方針を話していたら、後方から猛烈な勢いで気持ち悪い笑顔と共に高速で揉み手をしながらガメッツが走って来た。
「もう新手の妖怪なのじゃ」
「この世界にも妖怪っている設定なんだ」
「姫っ!! ミスリルの取り扱いは是非このわたくしめに!!」
うん、まぁミスリル格安入手と聞けば来るよね。
「あー、分かったのじゃ。ただしギルドメンバーの分配分を最優先。ギルドメンバーには割引価格で販売すること。よいな?」
「仰せのままに!!」
ふぅ、これで今度こそ面倒事は終わったな……ん?
「おい聞いたか? のじゃロリ姫のギルドに入ったらミスリルが格安で買えるらしいぜ!」
どうやらまだ何かないかと残っていたプレイヤーの観客がいたらしい。
「こりゃギルドに入らないとだな!!」
「そんで買ったら即脱退か?」
「ばっか、せっかく安く買えるんだから転売した方が金になるだろ」
「あ、そっか」
……前言撤回。全然終わってないわ。
「ガメッツ」
「ご心配めさるな。ギルド内でのミスリルの購入は入団順と功績を加味して判断いたします。それでも転売しようとする輩には相場以上の値段で買わせて大損させてみせましょうぞ! あと転売した連中は私のネットワークで補足してブラックリストに入れておきます故」
こういう時守銭奴は頼りになるね。
「客に恨まれない範囲で怪しい商売が我がモットーですので!」
普通に商売できないのキミ?
まぁ胡散臭い以外は割と良心的なんだよなこの不審者。
◆
久しぶりに運営からメールが送られてきた。
『TODO様へ
マルシェラ映画化の打診』
スッ転んだ。
え? 何? 幻覚? 詐欺?
『この度、マルシェラとカッシーの物語の劇場化企画が当社内で決定いたしました。
TODO様がテイムしたカッシーはILLのプレイヤー達の受けが非常によく、更に配信サイトで放送されたカッシーの切り抜き動画は一般の方々にも大変好評だったことを受け、ILLのスピンオフ作品を制作しようと企画が立ち上がった次第です。
つきましてはTODO様にはマルシェラのキャラクター使用の許可を頂きたくご連絡した次第です』
「映画化ぁ~~!?」
一体どんな映画を作るつもりなんだよ!?
てか俺は演技なんて出来ねえぞ!? 中身はマッチョの成人男性なんだぞ!?
収録スタジオに言ったら野太い男の声しか録れねぇよ!
『撮影に関してはゲームで使用しているマルシェラのボイスデータを使用しますのでTODO様に収録に参加していただく必要はありません。
脚本が完成した時点でマルシェラが言いそうにないセリフや口調などのチェックをお願いするくらいなのでご安心ください』
幸い、運営もこちらの懸念点を理解していたらしく先回りするように説明が書かれていた。
『キャラクター使用の許可を頂けましたら、グッズ展開も含めてキャラクター使用料を支払わせて頂きます。
具体的な金額はまだ決まっていませんが、過去作品の売り上げを考慮しておおよそこのくらいの金額になると思われます』
「なっっっっ!?」
そこに記載された金額の0の多さに眩暈がする。
「マ?」
この数字を見て俺がどんな返事を送ったのかはご想像にお任せする。
◆数年後◆
「東堂さん映画良かったですね!!」
帰り道に寄ったカフェで、同僚の子がグスグスと目じりに涙を浮かべながら今見て来た映画の感想を口にする。
「まさかのじゃ姫とカッシーの間にあんな感動的な物語があったなんて!!」
「ああうん、びっくりしたよね」
本当にびっくりしたよ。
だって数か月前に送られてきた脚本を見た瞬間ひっくり返ったもん。
「偶然拾った卵をマルシェラ姫が優しく抱きしめて温め続けるシーンはなんだか自分の子供のころを思い出しちゃいました。東堂さんもちっちゃいころウズラの卵を温めてヒナを孵そうとしたことありますよね!」
「いや、俺は無いかな」
「えー!? 無いんですか!?」
うん、この子意外とエキセントリックだな。
そして脚本もエキセントリックだった。
映画化した俺、いやマルシェラとカッシーの物語『近い湖へ還るKA-Sea』は幼い頃に母親を亡くし王宮で肩身を狭くしているお姫様と卵から孵ったドラゴンカッシーとの心温まる交流の物語だった。
偶然見つけた大きな卵を温め、そこから生まれたカッシーとの交流で心を癒されるお姫様。
カッシーと歌いながら海を泳ぐシーンとかいかにも映画ーな日常風景描写がされていて、しかしそこに現れたカッシーを狙う第4王女との対決。カッシーのルーツを探す冒険への旅立ち。
クライマックスでは攫われたカッシーを救おうと、かつてカッシーから貰った宝石によって覚醒するマルシェラ。そして最後は第4王女を懲らしめて感動のフィナーレという内容になっていた。
いやー 友情あり冒険ありバトルありの感動巨編だった。
最後のカッシーとの別れのシーンがまた泣けるんだわ。
ホント誰これ?
「あのラストも本当に、すごく良かったです。悲しいけどでもお互いの生きる場所に戻る為に再会を約束しつつも別れる二人!! スタッフロールが終わった後のあの思わせぶりなシーンがまた最高で下よね!!」
「そうだねー」
いや無いよ、あんな感動的な出会いじゃなかったよ。
何ならこっちが第4王女のノリでカッシー討伐に向かってたんだよ!?
「これが、勝者による歴史の改竄という奴か……」
酷い物を見たぜ……
なお、映画化の影響でマルシェラでのゲーム期間が増えたのは言うまでもない。
貯金は凄く増えたけどねっ!
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