放課後の静寂に包まれた図書室で、図書委員の中原朔は古い詩集に挟まれた一枚の青い花びらを見つけます。そこには針の先で「風がソーダの味がした」と、痛切で剥き出しの独白が刻まれていました。その主は、クラスの隅でいつも影のように息を潜めている少女・七瀬紡。彼女の内に秘められた鮮やかな「熱」に触発された朔は、ちぎったノートの端に自分の言葉を書きつけ、貸出カードの彼女のすぐ下の行に自らの名前を刻むのでした。
誰も寄り付かない文学の棚の奥で交わされる、声なき秘密の共有にひたすら胸が締め付けられます。デジタル管理が進む時代に、あえて古い紙の貸出カードと花びらを介して繋がっていく二人の不器用な距離感が、たまらなく愛おしいです。隠された感情が文字となって息づく情景描写が非常に美しく、窓の外から吹き込む夕立の風を肌で感じるような圧倒的な没入感があります。静かな空間に閉じ込められた、不器用で純粋な「熱」に触れたいすべての人におすすめしたい、珠玉の青春文学です。