第28話 メイド+少女達
「かんぱーい!」
大盛況の酒場の中に響くのはティーナの明るい一声。
この会では恐らく、セレスの病気が治ったことを祝いたいのもあるのだろうが、それを明言しないのはある種の気遣いなのだろう。
料理と飲み物がところ狭しと並んでいる一つの丸机の周りに座る小さな少女たち。
その中に俺が一人混じっており、なんだか異物感が拭えない。
しかし正面に座っているミナは、いつも通り頬を膨らましながら俺に接してくれる。
「全く......。こんな楽しそうなところに呼んでくれてありがとう。突然呼ばれたこととか、色々言いたいことはあるけど、そのことだけは感謝しておくから」
直接的なのか遠回しなのか、よく分からないお礼を言われていると、ロネリィは甘そうな炭酸の飲み物を呷っていた。
そうして、とても同い年に向けているとは思えないような恍惚とした面差しで、ミナを見つめている。
「ふふっ。素直じゃないミナってやっぱり可愛いわぁ......。――あ、今日は呼んでくれてありがとうございます! ヨークさん!」
顔つきを素早く切り替えて、心底嬉しそうにお礼を言ってくれるロネリィに俺は静かに頷いた。
「あぁ、今日は好きなだけ飲んで食べてくれて構わないからな」
「はい! ご馳走様になりまーす!」
両手を上げながら可愛らしい喜び方をしているロネリィ。
この子はミナが絡むときだけ、少し大人びた表情をする。
逆にそれ以外は朗らかな反応を見せるが、その二面性も微笑ましいものだなと思っていると......。
「それで貴方たちは、何歳なのか聞いてもいい?」
ミナは両手を組みながら隣に座る双子のメイドに問いかける。
周りの楽しげな酒場の雰囲気を抜くと、その様子はまるで犯罪者を尋問する少女の騎士団員のような形相だ。しかしそれは、ミナの通常時の顔だった。
二人は仲良く青髪を揺らしながら頬に冷や汗を浮かべ、緊張した顔色で答える。
「ネ、ネイは12歳なノ」
「ユイも12歳だヨ。ユイとネイは双子だからクリソツなんだヨ。ふ、二人は何歳なんだヨ?」
ネイは固まった表情で、ユイもおどけた様子は見せているが節々から緊張感を持っていることが分かった。
するとミナは、その答えを聞いて再び高らかに声を張り上げる。
「わたしとロネリィはどっちも10歳よ! 別に年上だからって、敬語を使ったりしないから! そういうのを求められても困るから!」
「「えっと......」」
ハッキリと言い切ったミナの宣言に、二人が顔を見合わせながら反応に困っていると、ロネリィは三人の間に言葉を挟んだ。
「ごめんなさい。ネイさんと、ユイさんでしたっけ? ミナは、こんな風に素直じゃないんですけど根っこは優しくておおらかだと思います。多分、恐らく......」
茶化すような空気感で悪戯な瞳をミナに向けると、彼女は短い茶髪を激しく揺らしながら叫び始めた。
「なんでそこで言い淀むのよ! まるでわたしが変な人みたいじゃない!」
口ではそう言っていたものの、そのミナの表情と声色はまんざらでもない、という意味合いが含まれていることが俺でも分かった。
そんなミナの珍妙な振る舞いに、ネイとユイにまとわり付いていた緊張感はほぐれていき......。
「ぷっ、どちらかというと変な人なんだヨ」
「ふふっ。――あっ」
二人が笑っていると、ギョロリと音が聞こえるようなミナの大きな瞳がメイド服を確かに捕えて......。
「二人とも......。なんですって?」
机を強く叩きながら立ち上がったミナは腕を組みながら、ネイとユイを轟々と燃え上がる瞳で見下ろしていた。
まるで酒場の中に大きな影が伸びて、角の生えた化け物に出くわしたような錯覚に陥っているのだろう。
双子は身を寄せ合って震えながら『あわわ......』とか細い声を鳴らしている。
獰猛な獣が二人に襲いかかりそうな気配が辺りに漂った。
しかしミナは、プイッと首を横に向けて納得したように席に座って......。
「ふんっ。今回だけは許してあげる。さっ、この人が奢ってくれるらしいから、存分に食べてあの人の財布を爆発させましょう!」
そう言うと、少女は大皿に乗せられた料理を小皿に取り分けて二人に渡した。
「嫌いなものとか、食べられないものはない?」
「な、ないノ。ありがとうなノ。ミナ」
「どういたしまして」
頬を少し染めながら感謝を伝えるネイに、勝ち気な笑顔で応えるミナ。
ユイも料理が乗せられた小皿を受け取ると『ありがと』と短く呟き、皿を口元に運んで沢山の料理をかき込んでいく。
「中々に味わい深いジャンキーな美味しさなんだヨ。これならいくらでも食べれちゃうんだヨ......!」
そうして双子の中に張り詰めた空気は無くなり、肩肘を張らずに落ち着いて食事と会話を楽しんでいる具合だ。
するとネイは先程のように頬に紅色を差しながら、照れたように語りだした。
「あの、ミナ。偶に村で見かけた時に、ずっと可愛いなって思ってから、一緒にご飯を食べれて嬉しいノ......」
「っ......!」
聞いたミナは、言葉にならないような息遣いを漏らして勢いよく立ち上がる。
驚きと共に見開いたツンとしている目を携えて、小さな肩を揺らしながらネイの席に歩いていく。
無表情のまま隣同士で座っている双子の前に佇むと、すぐに口元を緩ませて二人を思い切り力を込めて抱きしめていた。
「ふふふふっ! 貴方たち、本当に可愛いわ! 抱き心地も最高よ!」
「ぐわぁぁぁぁ......。ユイは別に何も言ってないんだヨ......」
「......」
強い抱擁に両手をワナワナと震わせて苦い表情で悶えているユイ。
そして好意を告白していたネイはどこか恥じらうように、はにかみながらミナの強行を静かに受け入れていた。
「あらあら......。まぁ、顔を赤くしちゃって......。微笑ましいですね」
そんな三人を、自らの顔に手を当てながら鑑賞しているのはロネリィ。
俺が口を出すことなく仲を深めてくれたことを嬉しく思いつつ、他の席の様子も確かめるべく静かに席を立った。
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