第7話 居候の許し
「ただいま……」
すべてを諦めたような面持ちのまま玄関の扉を空け、両親からの言葉なかったけど代わりにじめっとした匂いと静寂が迎えてくれる。
「なんか静かだ。ヴィオラは多分上の部屋かな」
両親は共働きという事もあって、自分が早く家にいちばん着いて少しだけ家の事をやったりすることはたまにある。だけど今は……
「おーい。ヴィオラ~ただい……ま!?」
自分の部屋に入って様子を見てみると、部屋のラグマットが敷かれた所に仰向けで手も足も大きく広げた体勢のまま倒れていた。
「ヴィ、ヴィオラ? 生き……てる? 気絶でもして──」
「はっ! あ、おかえり~梨央」
優しく体をゆすってみると少ししてヴィオラは意識を取り戻したかのように、体を起こし、ふにゃっとした笑顔のまま、僕の方に体を向けた。
「ヴィオラ……さっきまでどうしての? まるで死んだみたいに仰向けで倒れてたけど」
「あ、そうなの。梨央が学校に行ってからというもの、退屈で死にそうだったんだから!」
「退屈って……そこの本棚に小説とか漫画があるでしょ?」
「あったし何冊か読んだけど、あんまり好きなやつじゃなかった」
「そ、そう……」
ジャンルの好みは違うとはいえ、流石に100冊以上集めたラブコメのラノベ、漫画を好きじゃないと言われるのはちょっと……
「いつもあそこの本を読んでるの? それ以外で家でやることないの?」
「ないけど……なんかその聞き方、耳が痛くなるな……まぁ他の暇つぶしは今度考えてみるよ」
「ん。お願い」
* * *
「それで……今日の夕飯の時になんだけど」
「うん」
「ヴィオラがここにいられる理由を嘘とはいえ、それっぽく考えてみた」
「どんなの? 一応私もここにいるためにも協力はするけど……」
「まず、ヴィオラは家族の出張の都合で自分だけ日本に残ることになった女子」
「うん……ニホン?」
「そこからか……まぁそれについてはいずれ話すよ」
「で、突然のことすぎて途方に暮れていたタイミングで僕と出会い、家に招いた」
「へぇ〜けっこう理にかなってるんじゃない? けどその説明で1つ聞かれると思うし、誰しも疑問に思うことが1つあると思うよ?」
「え?」
「傍から見れば私って学生にしか見えないと思うんだけど……そこはどうするの?」
「……あ」
ヴィオラにそれについて指摘されるまでその辺の設定は何も考えていなかった。普通の高校生なら平日は学校に行くもの。
その辺りも両親が納得させられる理由を考えておかないと最悪の場合として、変に誤解されてしまい警察沙汰になるかも……
「そ、それは……えーと…………あ! ヴィオラは超天才で飛び級で大学に入っていて今は夏休み中ってことでどう?」
「夏休み中って……そこはギリ良いとして。私ってそのダイガクセイ? っていう設定なの? そういう見た目には見えないでしょ。流石に」
「ま、まぁ……そこは実際の頭脳と年齢が反比例してるって思ってもらえれば良いというか……」
「分かった……とりあえずそれで説明してみよう。けど
「分かってる。そこは任せて」
『二人とも~ご飯よ~!』
両親の説得の為の会議も一段落した頃合い、一階にいる母さんからの呼び声によって夕飯の準備が整ったことを報せる声が耳に入る。
「じゃあ……いこっか。ヴィオラ」
「うん……説明はよろしくね。梨央」
* * *
「それじゃあ手を合わせて……」
『いただきます』
今晩の夕飯は季節外れと言っても良い鍋だった。味は僕が昔から好きなゴマ豆乳。
けどその理由は分かった。今は梅雨に入ったこともあって、最近は雨が降る日も続き日によっては気温が20℃を下回る日もあり、今日はまさにそんな日だった。
「うん。やっぱり
「え? う、うん……」
「これが鍋……熱っ!?」
「ふふっ。ヴィオラちゃん。鍋は逃げないんだからゆっくり食べていいのよ」
最初はただ団欒とした時間を過ごしながら鍋を食べ進めていき、あっと言う間に鍋の具材はほぼ空になった所でお母さんがあの話を持ち込み、空気はきり替わる。
「それで? 梨央。今朝に言っていたヴィオラちゃんの事についてなんだけど……」
「う、うん……全部飲み込んでくれるかは分からないけど、二人とも。聞いて欲しい」
それから僕はヴィオラと一緒に考えた彼女自身の設定を如何にも本当の事っぽく信じてもらえることを祈りながら丁寧に説明した。
その話を聞いている時、二人は時折驚いている様子を見せることはあっても、最後まで黙って話をいてくれていた。
ちなみにヴィオラはというと特に何か話すことも無かったので両親と同じようにただ横で黙ってこの説明を聞いていた。
* *
「なるほどね……ヴィオラちゃんってそんなに頭が良かったのね。ちょっと驚いちゃったわ」
「はい。黙っていてすみません。私にとっては言いずらいことで……それに学校では私だけ浮いていて、頼れるような人もいなかったんです」
「そうだったのか……そういうことなら、とりあえず家に居させてやってもいいんじゃないか? 楓」
「そうね……確か今から大体二か月弱かしら? その夏休みの期間は」
「はい。それくらいの期間を経て、また学校が始まります」
「そう……家に居るのは構わないけど、ひとつだけ条件があります」
「じょ、条件?」
「ええ。それは……なるべく家の手伝いをしてもらいます。うちは私も健人さんも共働き故に火事が回らなくなるの。だからそれなりに手伝って欲しいと思ってるの。勿論。無理強いはしないけどね」
「そのくらい任せてください。家に居させてもらえる分、そのくらいは……」
「ふふっ。そうしてくれると私たちとしても助かるわそれじゃあ改めて……」
お母さんは持っていた茶碗をテーブルに置き、
「これから二か月の間、よろしくね。ヴィオラちゃん」
「はい! こちらこそ!」
差し出された手に応えるようにヴィオラは両手で握るように握手を交わし、改待った挨拶は完了した。
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