第34話 アークの守護者

 気付けば伊織は。みんながいるアークの祭壇前に戻って来ていた。

「――はぁ……、――はぁ……、うまくいったのか?」

 意識が次第にはっきりしてくると同時に、伊織の手には大切なぬくもりが。

「――イオリ、どうしてわたしを……?」

 伊織のすぐ隣には、今自分がこの場にいるのが信じられないといいたげなイヴの姿があった。

「ははは、契約したろ。イヴをもう一人にさせないってさ」

 イヴをまっすぐに見つめ、万感の思いを込めて告げる。

「――でもこんなことしたら世界が……」

「もうそんな自己犠牲の考えは止めてくれ。イヴはこれまでもう十分ってほど、がんばってきたんだ。あとのことは全部オレたちに任せて、自由に生きてくれたらいいんだ」

「――でも……」

 イヴは自由になったことで起こるかもしれない惨事に、責任を感じて心苦しい表情を。

「そんな顔するなって。これはオレのわがままだ。責任はちゃんととってみせるさ」

「――イオリ……」

 イヴの頭をなでながら、力強く笑いかける。

「伊織お兄ちゃん! イヴさん!」

「イオリ、やるじゃない。まさか本当に連れ戻してくるなんてすごいわ」

「いやー、イオリくん、男みせたね~。クロエほんと感心したよ~」

「はい、間宮さんの勇姿、しかとみさせてもらいました」

「ハハハ、さすが俺の見込んだ男だぜ!」

 みんなが駆け寄って伊織の健闘を称えてくれる。

「うんうん、これで見事ハッピーエンドだね! あとのことは責任をとってくれる伊織くんに任せておけば、万事オッケーかな!」

「おいおい、なに言ってるんだ? ノアもイヴを連れ出す手助けをした時点で、共犯だろ?」

 あっけからんに笑うノアへ、意味深に笑いかける。

「えー!? あれは伊織くんに言われたからやったわけで」

「ははは、手を貸したのはおまえ自身だ。それにノアは今回かなりやらかしたわけだし、後始末もちゃんと責任をとってもらわないとな。むしろアークに深く干渉できるノアがいないと、この先どうするんだって話だ」

「あはは、しかたないなー。伊織くんに付き合ってあげるよー」

 やれやれと肩をすくめるノアだが、やりがいがあると内心楽しそうであった。

「伊織お兄ちゃん、ノアお姉ちゃん、ひよりももちろんお手伝いしますよ!」

「ひよりありがとな」

「わー、それならまた昔みたいに三人一緒にいられるね!」

「はい! どこまでも伊織お兄ちゃんとノアお姉ちゃんについていきます!」

 ひよりはウキウキで伊織たちに協力することを選んでくれた。

「もちろん私も微力ながら力をかしますよ。間宮さんには数えきれないほどの恩がありますし、不安定な状態のアークを放ってはおけませんから」

「レイラさんもありがとう。すごく頼もしいよ」

「イオリくんたち、がんばってね~! クロエも陰ながら応援してるよ~!」

 クロエは手を振りながら、エールを送ってくれる。

 フィオナやアラタも同じ考えだとうなずいていた。

「おい、なに逃げようとしてるんだ? クロエやフィオナ、アラタも共犯者として責任をとってもらうぞ」

「クロエたちも~!? なんで~!?」

「ははは、オレの行動を黙認するだけでなく、背中も押しただろ。それはもう共犯者っていっていいだろ?」

「ちょっとそれ横暴すぎないかしら!?」

「そりゃねーぜ」

「しゃーなしか~。乗りかかった船でもあるし、見返りもありそうだしね~」

 肩をすくめるフィオナとアラタ。クロエは先を見据えながらも割とすんなり受け入れてくれた。

「――ふう、やっとたどり着いたね」

「みなさんお疲れ様です」

 そこへクリストハルトとリリィがやってくる。

「クリストハルトさんも来れたんですね」

「くくく、時間がかかってしまったがね。それよりおめでとう。トラヴィスくんの計画を止め、イヴも救い出し自由にしてみせるとは。すばらしい成果じゃないか」

 クリストハルトは芝居がかったように拍手し、賞賛の言葉を投げかけてくる。

「ただこれからが大変だ。トラヴィスくんが引き起こした大惨事の後始末はもちろん、この事件によりイデア機関がアークを所有していることもバレてしまった。こうなってしまっては、選択を一つでも誤ると戦争に発展するだろう。それだけでも一苦労なのに、極めつけは不安定なアークだ。今は少し正常な状態に戻ったが、制御の根幹をにぎっていたイヴがいなくなったことでこのまま進めばどうなるかボクにもわからない。しかもアークと外部のパスは完全に閉じ、イヴが戻って正常に戻す裏技ももう使えなくなってしまったときた」

 そして彼は現実を容赦なく突き付けてきた。

「こうなってしまっては、キレイごとだけでは済まされないだろう。それそうおうの力だって必要になってくる」

「――力か……」

 クリストハルトのいう通りだ。今やアークやイデア機関による様々なしがらみのせいで、いつ戦争が起こり、不安定なアークが再び暴走するかわからない。イヴを救い出した責任を取るには、争いを止めるためにも力が必要になってくるだろう。

「イオリ、アークの制御権は今わたしにある。完全に外部とのパスが閉じ切る前なら、まだ引き出せる」

「イヴ、頼む。アークを守るには力がいるんだ」

「うん、一緒に」

 イヴと手を取り合い、アーク中枢に干渉して願う。

 直後アークの心臓部分である巨大な虹色に輝く渦がまばゆく光だし、この場にいる全員を包んでいき。

「これがオレたちに協力してくれる対価だ。この力を持って、アークの管理を手伝ってくれ」

 伊織はみなに振り返り、まっすぐに告げる。

「ちょっとイオリくん!? これってまさか魔道目録!? うわ~、こんなものもらったらさすがにね~」

「本山にあった神楽霊鈴そのものです。伊織お兄ちゃんまさかこんなすごいものを、ひよりたちのために用意してくださったんですか!?」

「この神々しさ、聖剣・斬魔滅光じゃないかしら!? やばい。今アタシの手に伝説が……、さすがに持つ手が震えるんだけど!?」

「これはたまげた。わかるぜ。これ武極天書だろ。ハハハ、武刻印に力が流れ込んでくる。俺はもっと強く……」

「錬金万象。錬金術の原点とも言われた伝説の書をまさか拝める日がくるとは思いもしませんでした」

 クロエたちは伊織とイヴが用意した新たな力を、畏怖の念を込めながらまじまじと見つめる。

「やるねー、二人とも。オリジンレガシーを複製したのかな?」

「さすがにオリジンレガシーそのものを用意できなかったから、アナザーレガシーとしてな。出力は本家には劣るだろうけど、同じことはできるはずだ」

「くくく、これは恐れ入った。まさかコミュニティ側の者に、オリジンレガシーのアナザーを配るとは」

「ははは、アークを守護する一柱としてはふさわしい力じゃないですか? な、イヴ」

「うん、出血大サービス。がんばった」

 とんでもないことをしでかしてしまったのは、わかっている。だができてしまったのだからしかたない。もはやノリと勢いでアークに用意してもらったのであった。

「さあ、みんなこれからがオレたちの本当の戦いの始まりだ。アークを守護して世界を守るヒーローになるぞ!」

 そして伊織はみんなを見渡し、ヒーローの志しを胸に手を掲げ告げる。

「「「「「「「お~~~~~!」」」」」」」

 そんな伊織の音頭に、みんなは声高らかに応えてくれるのであった。

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