第26話 突入準備
無事に聖騎士とブレンの侵攻を止め、守護巫女の駐留拠点へ戻ってきた伊織たち。今はノアの準備が終わるまで、みな身体を休めていた。
現在あちこちからアンノウンが押し寄せているが、イデア機関やほかのコミュニティたちが協力しうまく対処してくれているそうだ。そのおかげで今のところ、被害を最小限に抑えられているらしい。父親の正人の方も、今守護巫女と協力してイデア機関の代表であるグラン救出に向かってくれていた。
「間宮さん、ありがとうございました。あなたのおかげで無事戦争を回避することができました」
レイラが頭を下げ、心からの感謝を伝えてくれる。
「うーん、うまくいったからよかったけど、かなり綱渡りだったというか。むしろ勝手に巻き込んで、謝らないといけないレベルの話だよな、あれ……、ははは……」
頭をかきながら、申しわけない気持ちになってしまう。
勝ったからよかったものを、もし負けていればイデア機関は降伏しとんでもない状況においこまれていたはず。なんとも無責任に、イデア機関側を賭けのテーブルに上がらせたものだと今さらながら反省していた。
「いえ、あの状況ではあれが最善でしたよ。本当は私がおじい様の代理として、うまく立ち回らないといけなかったというのに。不甲斐ないばかりです……」
レイラは胸を押さえ、己が無力さをかみしめる。
「あれはしかたないさ。ただでさえ向こうはイデア機関側を、敵視しまくっていたんだ。あんな状況で説得するのは至難の技だよ」
「ふふふ、お気遣い感謝します。この件が終わったら、間宮さんにはお礼をしないといけませんね。――そ、その感謝のキスを……」
レイラが手をもじもじさせながら、まさかの爆弾発言を。
どこからどうみても清楚な彼女らしからぬ発言に、耳を疑ってしまう。
「き、キス!?」
「もちろん頬にですよ!? いえ、もし間宮さんがどうしてもというなら、ちゃんとしたキスを。わ、私のファーストキスになってしまいますが……」
レイラは顔をゆでだこのように真っ赤にさせ、ごにょごにょ口にする。
「あのレイラさん、さすがにちょっと考え直そう」
「物足りないですよね! 確かに私の救出や、フィオナさんや神谷さんの説得。さらに命がけの戦闘まで。ここまでしてもらって、この程度では到底つり合いませんよね!? やはりクロエさんが言ってたように、もっとサービスしないと!?」
あわあわと取り乱しながら、さらにおかしな思考になっていくレイラ。目をグルグルさせながら、明らかに混乱していたといっていい。
「レイラさん!? クロエになに吹き込まれたんだ?」
「私から相談したんですよ。どう恩を返したらいいのかと。そしたら間宮さんはむっつりすけべだから、その年頃の男の子が喜びそうなこの路線のほうがいいとアドバイスを……」
「あいつなんてこと吹き込んでくれてるんだ!? レイラさん、そんなの間に受けたらだめだからな! お互いクロエにからかわれてるだけだ」
レイラの両肩をつかみ揺さぶりながら、なんとか正気に戻そうと。
「え? そうなんですか?」
「ああ、だからもっと普通のでいいよ」
「普通といわれましても」
「じゃあ、アークとかレガシーについて、今度ゆっくり教えてくれよ。いろいろあるみたいだし、なんかちょっと興味でてきたからさ」
「それならよろこんで!」
レイラは伊織の手をがっしりつかみ、ぐいっと前のめりに。その瞳はキラキラ輝いていたといっていい。
「私の部屋に招待してこれまでの歴史から見どころまで、数日に分けて熱く語らせてもらいます!」
「数日に分けて!? いやいや、そんな長い時間をオレのために使ってもらうのはわるいよ。軽くで大丈夫だからさ」
「お気になさらず! 私も楽しいですし、ぜひアークのすばらしさを布教させてください!」
「――そ、そこまでいうなら……。お手柔らかに……、ははは……」
彼女のあまりの熱量に押されながら、笑うしかなかった。
「伊織お兄ちゃん! レイラさん! ノアお姉ちゃんが大至急来てほしいそうです!」
「わかった。今行く」
ひよりの知らせに、伊織たちはノアのところへと向かう。
「ノア、なにか進展があったのか?」
「もうバッチリだよ! 前にやったみたいに空間跳躍があったでしょ。あれでいきなりアークの深部まで、ワープできるようにしたよ!」
ノアはピースしながら、得意げにウィンクを。
「おいおい、そんなことが可能なのかよ!?」
「アーク内の空間を解析して、座標とか割り出すの大変だったんだから!」
「中は普通に入って大丈夫なのか?」
「長時間いるのはさすがにマズイと思うけど、少しなら大丈夫そうかな。あとある程度内部構造を把握できたから、最深部まで案内できると思うよ!」
「まさかそこまでしてくれるなんて。ノア、もしかしてもう記憶が戻って」
アーク内部を解析し、ワープまでできるようにするとは。元の記憶なしでできる芸当ではないだろう。
「あー、そこらへんはまだあんまりかな。ただ天啓がすごくてね! あとあたし自分で思っていた以上に天才みたいで、なんかパパっとできちゃった! いやー、自分の才能がおそろしいってこういうことをいうんだねー!」
ノアはアゴに手を当て、不敵に笑いどや顔を。
「それと悪い知らせもあるの。敵はもう最深部にたどり着いて、干渉しているみたい。戦争を止められて妨害できたとはいえ、このままだとまずいかも」
「すぐにでも向かわないといけないのか。今回は何人までつれていけるんだ?」
「あたしを含めて、がんばって八人かな」
「じゃあ、オレとイヴ、ノア」
「私も行きます。レイヴァース家の人間として、この騒動なんとしてでも止めなければ」
「伊織お兄ちゃんやノアお姉ちゃんが行くなら、ひよりもお供します!」
「クロエも行くよ! アークの中に入るなんて神イベ、ぜひとも味わっておかないとね~♪」
レイラたちも覚悟を決めた面持ちで、名乗りを上げてくれた。
「これで六人、あとは……」
「ボクとリリィが行こう。きっとなにか役に立てると思うよ」
「お任せください」
考えていると、クリストハルトとリリーが名乗りを上げる。
「クリストハルトさんたちはダメー。勝手にアークに干渉していろいろしそうだから、連れて行きたくないかな」
しかしノアは即座に却下する。
すごく頼もしい気がするが、ノア的にはダメなようだ。純粋に力をかしてくれたらいいが、私利私欲のために動かれて出し抜かれでもしたら確かにやばい。ここはお留守番しといてもらうのが吉かもしれない。
「それは残念だ」
クリストハルトは肩をすくめ、おとなしく引き下がってくれる。
「じゃあ、残り二人は」
「俺と」
「アタシよ」
そこへアラタとフィオナが名乗りを上げた。
「おまえら」
「敵の親玉をぶちのめしにいくんだろ? 俺もまぜろや!」
「悪を絶つのは聖騎士の役目だからね。それにアナタたちがちゃんと事態を収束に持っていくか、監視もしないとだし」
「でも二人はボロボロじゃないのか?」
「それはお互いさまでしょ」
「ハハッ、これぐらい屁でもねーぜ」
伊織の心配に、二人は不敵に笑う。
「いいんじゃない? 一緒に行動してくれたら聖騎士側とブレン側の証人にもなるし、戦力としても申し分ないからね~。あれだけ足を引っ張ってきたんだから、働いてもらわないと♪」
「そうですね。フィオナさん、神谷さんにも来てもらいましょう」
「そうこなくっちゃな! いっちょやってやろうぜ、兄弟!」
アラタが伊織に馴れ馴れしく肩を組み、豪快に笑いかけてくる。
「兄弟って距離が急に縮まりすぎじゃないか?」
「ハハッ、つれねーこといわないでくれよ。あれだけ熱い戦いを繰り広げた仲だろ? 伊織の拳、懸ける思いは俺の魂にちゃんと響いたぜ! そして確信した。おめーとなら、いいダチになれるってな」
「ならダチでな。兄弟はなんかこっぱずかしいし」
「そうか? まあ、こまけーことはいいか! これからも一緒に切磋琢磨していこうぜ! 伊織!」
「ははは、そうだな、アラタ」
アラタの言う通りあの戦いを通して、彼とは友情に似たなにかを感じてはいた。これが夕暮の河原でケンカして、絆を深めたというやつなのだろうか。悪い気はしなかったという。
「わーお、男の子同士の熱い友情ってやつだね!」
ノアがキャッキャッと、はやし立ててくる。
「ふーん、戦いでの絆ね……。まあ、レイラさんに対し、敬意を感じたのは確かね」
フィオナがレイラたちを見て、なにやら考え込む。
「レイラ、あなたのイデア機関に対する志には、ほんとうに感動したわ。なんか好き勝手いって突っかかりまくったアタシだけど、よかったら仲よくしてくれないかしら。あなたとならすごくいい交友関係を結べそうだわ」
そしてフィオナはほおをぽりぽりかきながら、テレくさそうに提案を。
「はい、もちろん喜んで!」
するとレイラがフィオナの手を取り、満面の笑顔で応えた。
「ありがと。ふふっ、これを機に少しイデア機関について教えてもらおうかしら」
「はっ! ではアークやレガシーについてご教授しましょうか! もはや語りつくせないほど、興味深い話がいっぱいあるんですよ!」
レイラが急に目を輝かせ、フィオナに詰め寄りはしゃぎだす。
どうやらフィオナも、伊織と同じ過ちを起こしてしまったようだ。一体どれだけ拘束されることになるのやら。
「――お、お手柔らかにお願いするわね……」
「行くメンバーは決まったみたいだね! 十分もあればゲートを作れるから、みんな準備しておいて」
みなでうなづき、各自準備を始めにいく。
「ねー、伊織くん、これで本当によかったのかな?」
そんな中、ノアが伊織の上着の袖をつかみ、不安げにたずねてきた。
「いいもなにも、ノアがいなきゃ詰んでたレベルだぞ、これ。それともなにか気がかりなことがあるのか?」
アーク内に突入し、トラヴィスたちを止めにいけるなんて願ったり叶ったりな状況。もしノアががんばってくれなければ、彼らの計画を指をくわえてただ見ていることしかできなかったはずだ。
「ううん、ごめん、今の発言忘れて、――あはは……」
ノアは手を離し、無理やり笑ってみせた。
その不安は全然晴れていない様子。一体なにが彼女をそうさせているのだろうか。気になりはするが、今はトラヴィスたちを止めることに集中すべきだ。なので伊織も準備を始めるのであった。
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