第19話 作戦会議

 伊織たちはイデア特区内にある、守護巫女の駐留拠点に来ていた。

 建物内には守護巫女や、クロエが呼んだ魔法使い、さらにレイラが信頼するイデア機関の兵士たちも集まっている。安全なところへ空間跳躍したノアは、あとから正人と伊織が車両で迎えに。イヴは伊織とのラインを辿り戻ってきていた。

「――みなさま、お待たせしました。改めて自己紹介を。レイラ・レイフォードです。今このイデア特区でなにが起こっているのかをお話します」

 レイラが現状について説明し始める。

 イデア機関がアークをすでに発見し研究していたこと。レイラの父親であるトラヴィスが黒幕だったこと。そして今彼がアークを掌握するまで、あと一歩だということを。

「アークが発見されていた!?」

「それをイデア機関がずっと隠し持っていたということか!? これはしかるべき処遇を!」

「アークを使いこなされたら、いくら我らでもおしまいですよ!?」

 アークの事実に場は騒然としだす。みな慌てふためき、ちょっとしたパニック状態に。

「みなさん落ち着いてください。思うところはおありでしょうが、今は父であるトラヴィスの計画を止めることが先決です。どうか力を貸してもらえないでしょうか?」

 レイラは頭を下げ、ここにいる人々に頼み込む。

 そこへクロエが手を上げ質問を。

「ね~ね~、レイラさん。それでなにか手だてとかあるの?」

「一応手だてはあります。ですがまず現状がどうなっているのか把握しなければ、動きようが……」

「それならボクが説明しよう」

 レイラが口惜しそうに目を伏せていると、クリストハルトがリリィを連れ部屋に入ってきた。

「クリストハルト博士、どうしてここに?」

「くくく、おもしろいことになってるからね。研究室にこもってる場合じゃないだろ? さて、現状だがアークが活性化し、どんどん膨張していっているね」

「膨張ですか?」

「アークはいわば小型の宇宙みたいなものでね。内部には無数の空間が広がっているんだ。そして今内部の空間があふれだし、イデア特区の地下を浸食し始めている。このままだとイデア特区はアークに呑み込まれ、異界化してしまうかもしれない」

「それはまさか暴走しているということですか?」

「暴走といえば暴走だね。ただかつての大惨事を招いた暴走とは、また違うようだ。おそらくアークの中枢にある制御装置の核になんらかの干渉をし、取り外したみたいなんだ」

 クリストハルトが肩をすくめながら、おかしそうに笑う。

「それでアークが不安定になっていき、ご覧のあり様というわけだ。もしかするととられた制御装置の核を取り戻そうと、こちらの世界に手を伸ばしているのかもしれないね」

「クリストハルト博士、ではその制御装置の核を戻せば、事態は治まるということですか?」

「たぶんね」

 クリストハルトは伊織とイヴへ意味ありげな視線を向けたあと、静かにうなずいた。

「だが問題はトラヴィスくんが核を失った制御装置に干渉し、アークそのものを完全に支配しようとしてることだろう」

 制御の核がない事態を逆手に取り、自分たちがその制御部分を担おうとしているのだろう。そうなればアークを自由に行使でき、トラヴィスの野望の実現も時間の問題ということに。

「そういうことですか。事態を把握しました。今すぐ父さんを追って止めないと」

「彼は今アークの中枢に向かっている頃合いだろう。我々も追いたいが、かなり難しいだろうね。アークの保管されていたフロアに続くエレベーター前は、ガチガチに敵の戦力で固められているようだ。たとえそこを抜けたとしても、地下はアークに浸食され異界化している。そこはもちろん、アーク内部も非常に危険な領域であることは間違いない。トラヴィスくんはアークの力を使い進めているようだが、なにも対策なしに入るのは無謀だろう」

「レイラさん、問題はそれだけじゃないよ~。コミュニティ側がこの事態をなんとかしようと、戦力をイデア特区に送ってる。このままだと戦争まったなしって感じ」

「戦争。そうか、それであの予言ということだね。このイデア特区内で戦争を起こすのも、彼の計画に入っているのだろう。アークの制御装置がうまく機能していないこの不安定下の状況で、かつての戦争レベルの争いを引き起こし暴走させる。その異常事態の連続により負荷がかかった制御装置に、うまいこと干渉して完全に支配する作戦なのだろう」

「うわ~、クロエたちコミュニティ側をいいように使おうとしてるってこと? マジムカつくんですけど~」

 クロエがさぞ不服そうに口をとがらせる。

「では争いを起こさなければ、父さんたちの計画を大幅に遅らせることができるということですね」

「そういう事情なら、魔法使い側の進行止められるかもね~。説得するクロエのがんばりしだいだけど……」

「あの、あの、守護巫女側もたぶんいけると思います」

 ひよりはおずおずと手を上げ、進言する。

「でもさ~、聖騎士とブレンはきっとムリっしょ。正義バカと戦闘狂だし、絶対聞く耳もたないよ~」

 クロエが肩をすくめながら、大きなため息を。

「こちらから手だししなかったとしても、攻めてこられたら……。民間人の避難もしなければいけませんし」

「くくく、この戦争を止めるのも大事だが、根本のトラヴィスくんもどうにかしにいかないと事態は悪くなる一方だよ。完全とはいかなくても、徐々に支配はできているはずだからね」

「そうですね。前者もそうですが、後者がとくに難しい。どうやって父さんを追えば……。クリストハルト博士、なにか方法はありませんか?」

「すまないね。時間があればまだなんとかなるかもしれないが、一刻の猶予もない状況だとね」

 頼みの綱のクリストハルトであったが、静かに首を横に振った。

 もはやあまりの不利な状況を前に、重々しい空気が流れていく。

「あはは、それならあたしがなんとかできるかも!」

 そんな中、ノアがとんっと胸をたたき、得意げに名乗りを上げた。



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