第15話 伊織vsミハイル

 伊織たちはノアの空間跳躍で、無事目的地であるレイラが捕まっている部屋まで乗り込むことに成功する。ちなみに空間跳躍は、平衡感覚がおかしくなり不思議な感覚が押し寄せてきたがそれも一瞬の出来事。すぐにこの場所にたどり着けていたという。

「到着だよー!」

「まじでワープできてる!? いや、それよりレイラさんは?」

 本当にワープできたことに驚きつつも、部屋内を見渡す。その内装は広々とした高級感あふれる宿泊施設のような構造をしており、VIP用のスイートルームみたいだ。

「キミがレイラさん?」

 歳は伊織と同じぐらいか。そこにいたのは赤毛の髪の整った顔立ちをした、まるでお姫様のような可憐で凛々しい少女である。慈愛に満ちた瞳をした、強い使命感を胸に宿していそうな女の子であった。

「――は、はい、そうですが……」

 レイラは目を丸くしながら、唖然とした返事を。

 いきなりなにもないところから人がぞろぞろ来たのだから、こうなるのもムリはないだろう。

「やったー! レイラちゃんはっけーん! 助けにきたんだよ♪」

 ノアはレイラをビシッと指さし、はしゃぎだす。

「よし、拘束とかはされてないな。確保できたということで、ノア、帰りを頼む」

 レイラはとくに拘束されておらず、ただこの部屋に閉じ込められていただけのようだ。

 見た感じケガとかもなく、客人的扱いを受けていたらしい。

「はーい、ちゃちゃっと終わらせるから、少し待っててねー」

 ノアがすぐさま空間跳躍の準備に取りかかってくれる。

「あなたがたは?」

「オレはノアの幼馴染の間宮伊織で、こっちがレガシーのイヴだ」

「あなたがノアさんの言ってた幼馴染の……」

 レイラが伊織へなにやら意味ありげな視線を向けてくる。

「オレのこと聞いてたのか? もしかしてノアのやつなんか変なことをしゃべってないよな?」

「いえ、すごくほほえましい幼馴染エピソードの数々を、教えてもらいましたよ」

 クスクス微笑ましげに笑うレイラ。

「うっ、それはそれではずかしいというか……」

「イオリ、くる」

「敵か!?」

 敵の殺気を感じたのか、イヴが臨戦体勢を。

 次の瞬間、扉が勢いよく開き、誰かが突入してきた。

「きゃっ!?」

「イヴ!?」

 入ってきた人影は、即座にイヴへ狙いを定め鋭利な爪で切り裂こうと。

 イヴはなんとか星渦の剣で受け止めるが、続けざまに放たれた敵の蹴りが炸裂。彼女は後方へ吹き飛ばされ、そのままガラス張りになった壁を突き破る形で外に投げ出されてしまったのだ。

 こんな高所から投げ出されたため、普通の人間ならまずひとたまりもないだろう。だがレガシーであるイヴなら無事だと信じたい。

「これで一番厄介な相手に退場してもらえたな」

「ミハイル!」

 襲い掛かってきたのは、これまで何度も伊織たちの前に現れてきたミハイルであった。

「本当によく会うな間宮伊織。まさかこんなところまでしゃしゃり出てくるとは。呆れを通り越して感心するよ。だがそれもここまでだ」

 ミハイルは悪魔の腕を伊織たちへと向け、殺意を向けてくる。

「ノア、まだか?」

「待って、さすがにもう少し時間がかかっちゃう!?」

「おっと、そうはさせないぞ!」

 ミハイルは好きにはさせないと、鋭利な爪をきらめかせ近づいてくる。

 イヴがいなくなってしまったとなると、伊織が戦うしかない。すぐさまミハイルとノアの間に割り込み対峙を。

「ここはオレがなんとかするから、二人は下がっておいてくれ」

「間宮さん、大丈夫なんですか?」

「ああ、オレを信じてくれ」

「わかりました。お願いします」

「伊織くん、がんばってね!」 

 ノアとレイラは巻き込まれないように、部屋の隅っこへと下がる。

「ハハハハ、まさかこの俺を止めようというのか? あのレガシーの少女抜きで? 貴様になにができるというのだ?」

 ミハイルがさぞおかしそうにあざ笑う。

(この態度、そうか、こいつはオレが戦えるようになったことを知らないんだ。それなら!) ミハイルはまだ伊織の力を見ておらず、ただの一般人としか映っていないのだろう。ならばその油断をうまく利用するべきだと判断する。

「やってみないとわからないだろ!」

 伊織はミハイルに向かって、大振りで殴りかかりに。それはまるでケンカなどほとんどしたことがない人間のように。

 ミハイル側からしてみれば、伊織からノアのやろうとしてることの情報を手に入れたいはず。なので殺しにくる可能性は低く、危険がともなう演技も少しぐらい大丈夫なはずだ。

「相手の力量も計れんとは実に嘆かわしい。しょせん威勢だけはいいガキか。どけ」

 ミハイルは悪魔の腕を無造作に振るう。まるで虫でも振り払うかのようであり、完全に舐め腐っていたといっていい。とはいえその攻撃は常人なら躱せず、尋常ではない悪魔の豪腕に吹き飛ばされていたはず。

 しかし伊織は幼いころから父親に鍛えられ、軍人学校でも戦闘訓練を受けてきた身。ゆえにこんな赤子相手のようなぬるい攻撃、躱すのはそう難しくはなかった。

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ!」

 伊織は相手の懐に入り、先ほどの演技をやめ即座に態勢を整える。そしてミハイルの胴体へ、キレのある渾身の拳を叩き込もうと。

「はっ、そんな攻撃きくとでも?」

「それはどうかな!」

 ミハイルからしてみればなんの力もない、ただのパンチ。受けても大したダメージなどないと、笑い飛ばすレベルだろう。

 だが実際は違う。伊織が放つ拳には、必殺クラスの破壊力がある星渦をまとわせているのだ。これがもろに入れば、いくら強者である彼でも大ダメージは逃れられないだろう。

「これは!?」

 ミハイルは驚愕しながらも、伊織の星渦の一撃に呑まれその膨大な力の前に吹き飛ばされていった。

「伊織くん、さっすがー! まさかあんな強そうな相手を倒しちゃうなんて!」

「いや、まだだ」

 伊織は手ごたえがないことに気づき、すぐさま臨戦態勢を。

 というのも伊織の拳が敵の胴体へ入るまさに刹那。ミハイルは伊織の攻撃の異常性に気付いたようで、とっさに腕を滑り込ませてガードしたのだ。あれでは戦闘不能になるほどのダメージは、与えられていないだろう。

 その証拠に敵はスッと立ち上がり。

「ザコの分際でよくも俺をコケにしてくれたな!」

 ミハイルはものすごい勢いで突撃し、伊織へ回し蹴りを放ってきた。

 あまりの速さにガードすることしかできず、そのまま後方の壁にたたきつけられてしまう。

「ぐはっ!?」

「おとなしく、叩きのめされろ!」

 しかしそれで終わりではない。間髪入れずキレたミハイルの刺突が、伊織の顔面へ襲い掛かる。

「伊織くん!? 危ない!」

「ッ!?」

 ノアの声にふらつく意識を呼び戻し、身をかがめ攻撃を回避する。 

 彼の刺突は壁に突き刺さり、そのあまりの破壊力に大きな亀裂を生んでいた。もし回避しなければ、そのまま顔面に当たり致命傷になっていてもおかしくないレベル。もはや確保することを忘れ、殺しにかかってきていたといっていい。

「この!」

 伊織はお返しといわんばかりに、星渦が込められた拳を敵の顔面へ叩きこもうとするが。

「調子に乗るなよ! カスが!」

 ミハイルは迫りくる拳をほおスレスレで躱し、鋭利な悪魔の爪で伊織を引き裂いた。

「――うっ……」

「伊織くん!?」

「間宮さん!?」

 ノアたちの悲鳴が室内に響き渡る。

 それもそうだろう。伊織はもろに鋭利な爪の斬撃をくらったのだ。敵との距離的にも爪が深々と獲物を斬り裂いているはずであり、もはや致命傷を受けていてもおかしくはないほどだったのだから。

 伊織はそのまま引き裂かれたであろう箇所を押さえ、うずくまる。

「ハッ、おとなしくしておけばよかったものを。俺に逆らうからこうなるのだ!」

「ははは、なんてな!」

 あざ笑い隙だらけのミハイルへ、伊織は急に立ち上がり星渦をまとった拳を彼の胴体へ叩き込んだ。

 これには再び驚愕の表情を浮かべながら、吹き飛ばされるミハイル。

「伊織くん、大丈夫なのかな!?」

「ああ、星渦を胴体へまとわせ、ガードしたからな」

 そう、敵に引き裂かれる間際、伊織はアラタ戦でも使った星渦の防御を胴体へ展開したという。そのおかげでなんとか致命の攻撃を凌いだのであった。

「小癪なガキだ。ならばしっかり防御してみせろ! ブラッドネイル!」

「ッ!?」

 ミハイルはふらふらと立ち上がり、禍々しいオーラをまとった鋭利な爪で虚空を引き裂いた。

 次の瞬間、後ろの壁ごと伊織は引き裂かれてしまう。空を飛翔する強力な爪撃。とっさに星渦の防御を展開し防いだが、常人なら今ごろなにをされたかわからずその場で引き裂かれていただろう。

 しかし安堵しているヒマなどない。なぜなら敵が瞬く間に間合いを詰め、胴体へ展開した星渦の防御壁へ爪による刺突を繰り出してきたのだ。

 もはや胴体に風穴が開きかねない閃光のような刺突は、星渦の防御壁へ勢いよく突き刺さる。

「そんなチャチな防御、貫いてくれるわ!」

 鋭利な爪が、どんどん星渦の防御壁にめりこんでいく。

 星渦は膨大な力の奔流。ゆえにどちらかといえば攻撃に特化している代物。それを無理やりクッションのように、防御に使っているのだ。なので力でごり押しされてしまうと、貫通される未来しかなく。

(まずい!? このままじゃ貫かれる!?)

「死ね!」

 伊織が危惧したのもつかの間、星渦の防御壁は貫通され胴体に直接刺突が刺さろうと。

(やられる!?)

 致命傷を覚悟した瞬間。

 ガキィン!

 鋭利な爪がなにか固い物に阻まれた。

「え? これは?」

 なにが起こったのか。恐る恐る胴体を見ると、そこには淡い赤色の水晶の塊がミハイルの攻撃を防いでくれていたのだ。

 そして水晶は氷のようにだんだん大きくなっていき、伊織とミハイルの間へ壁として展開されていく。

「水晶壁。間宮さん、ありがとうございます。あなたが時間を稼いでくれているおかげで、私のレガシーを呼び出せました」

 レイラの指には、キレイに輝く緋色の指輪がはめられていた。

「これはレガシー製錬赤晶せいれんせきしょう。バカな、レイラさまのレガシーはこちらで取り上げ、厳重に保管していたはず」

「これもアークの巫女の成せる技といっておきましょうか。少し時間がかかりましたが、この場に召喚させてもらいました」

「なるほど、まさかそんな手を隠し持っていたとは。そしてこれがウワサのレイラさまの製錬赤晶。だが多少は強度があるみたいだが、俺の悪鬼豪腕の力の前にはこの程度!」

 ミハイルは水晶の壁をつかみ、力を入れる。

 そのあまりの腕力により水晶に亀裂が入っていくが。

「クッ」

 しかしできたのもそこまで。自慢の悪魔の豪腕を持ってしてでも、水晶の壁を砕くことはかなわなかった。

「製錬赤晶をあまくみないでください。私が全力で生成した水晶壁は、なんぴとたりとも打ち砕くことかないません」

「なるほど強度は認めよう。しかし守りだけではこの俺に勝てはしないぞ!」

「ふふふ、製錬赤晶は守りだけではありませんよ。いきます」

 水晶の壁が砕けたと思うと、レイラが前へ。彼女の手には水晶でできた鋭くきれいな剣がにぎられており、ミハイルへ華麗に斬撃を繰り出す。

「ちっ」

 ミハイルは水晶の剣の一閃を、後方へ跳躍することで刃から逃れた。

「逃がしません! 貫け!」

 斬撃を躱されたレイラだが、即座に次の一手を。

 彼女が手を前へ振りかざした瞬間、一メートルほどの水晶でできたつららが放たれる。まるで標的を串刺しにしようといわんばかりの勢いで、飛翔していくが。

「これならば!」

 ミハイルは水晶のつららを悪魔の豪腕で薙ぎ払い、側面から砕いてみせた。

 砕かれた水晶が舞う中、不敵な笑みを浮かべていたミハイル。だがその表情がすぐさま焦りのものへと変わる。

「オレもいることを、忘れてもらったらこまるぜ!」

 レイラの攻撃をやりすごしたミハイルであったが、そこへ伊織が懐へ入り込み星渦をまとった拳を振りかぶっていたのだがら。

「間宮伊織!?」

「くらえ!」

 そして伊織の渾身の一撃が炸裂。

 ミハイルは両腕を滑り込ませギリギリガードするが、星渦の内包するあまりの破壊力に壁へたたきつけられるのであった。 

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