第11話  飛空艇

酒場の扉が閉まり、夜風がふたりの頬を撫でた。

 志朗とケルビムはクラウンに乗り込み、エンジンが低く唸りを上げる。

車がゆっくりと走り出すと、酒場の影からひとつの人影が、

 無言でその背中を見送っていた。

「……」

その視線に気づく者はいない。

車内では、ケルビムが不安げに口を開いた。

「このままドラグニアに向かって大丈夫なんでしょうか?

 老人と秘宝の情報についても……曖昧な感じですし」

志朗は前を見据えたまま、静かに答えた。

「ドラグニアに住むほとんどの国民はドラゴンと竜人だ。

 意外に思うかもしれねぇが、あいつらは他の民族や種族に対して友好的な種族でもある。

 ……余計な刺激を与えなければな。」

ケルビムは感心したように目を丸くした。

「志朗さん、よく知ってますね」

「一般常識だぞ? ケルビム」

皮肉っぽく言う志朗だったが、ケルビムはまったく気にしていない。

「……それで、志朗さん。

 ドラグニアって場所はどこにあるんですか?」

その瞬間、志朗の表情が険しくなった。

「実はよ……問題はそこなんだ」

「え?」

「ドラグニアは“地図に載ってねぇ”国なんだよ。

 俺もベストを尽くすが……

 場合によっちゃ、お前に頼ることになるかもしれねぇ……!」

「はぇ?」

ケルビムは素っ頓狂な声を上げ、ぱちぱちと瞬きをした。

クラウンは夜の道を走り続ける。

 ふたりを乗せて―。

クラウンは夜の道を走り続ける。

 ふたりを乗せて――まだ見ぬ竜の国へ。

しばらく沈黙が続いたあと、志朗がぽつりと口を開いた。

「……ケルビム。

 さっきの話の続きなんだがよ」

「はい?」

「ドラグニアは地図に載ってねぇ。

 つまり、普通の行き方じゃ辿り着けねぇってことだ」

ケルビムは不安そうに眉を寄せた。

「じゃあ……どうやって行くんですか?」

志朗はハンドルを握り直し、ちらりとケルビムを見る。

「……お前、飛べるよな?」

「えっ」

「だからよ。

 俺を乗せて連れて行ってくれねぇか?」

ケルビムは一瞬固まり、次の瞬間、ぶんぶんと首を振った。

「む、無理です!!」

「なんでだよ!? お前、空飛べるだろ!」

「だ、だめです!!」

頑なすぎる拒否に、志朗は眉をひそめた。

「……せめて理由だけでも教えてくれないか?」

しかしケルビムは、唇を結んだまま沈黙を貫いた。

 目をそらし、何かを隠すように。

「……そうかよ」

志朗はため息をつき、前を向いた。

「わかった。他の方法で行くしかねぇな」

ケルビムは不安げに身を乗り出す。

「……他の方法って?」

「あるさ」

志朗はアクセルを踏み込み、静かに語り始めた。

「ドラグニアに行くには――

 太古の昔に失われたロストテクノロジー、

 “飛空艇”を手に入れる必要がある」

「ひ、飛空艇……!?」

ケルビムは目を輝かせた。

 未知の言葉に、好奇心が爆発している。

「そんなものがまだ残ってるんですか!?

 どこにあるんですか!?」

志朗はにやりと笑った。

「心当たりがある」

ケルビムは期待に満ちた瞳で志朗を見つめる。

志朗はわざと間を置き、ゆっくりと答えた。

「――海の中さ」

クラウンは夜の海へ向かって走り続ける。

 ふたりを乗せて――

 失われた飛空艇の眠る場所へ。

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