第14話
第14話
影武者の俺、王妃と恋愛しました〜宮廷ラブコメディ〜
その日。
俺は、嫌な予感を感じていた。
理由は――特にない。
だが、この宮廷では。
嫌な予感は、だいたい当たる。
「王様」
内官長が入ってきた。
顔は落ち着いている。
だが。
その一言で、俺の予感は確信に変わった。
「側室様がお越しでございます」
……来た。
(やっぱり来た……)
完全に来た。
逃げ場なし。
「……お通ししろ」
なんとか答える。
声が少し固い。
だが仕方ない。
もう逃げられない。
しばらくして。
側室が入ってきた。
柔らかな笑顔。
美しい姿。
いつもと同じ。
……のようで。
少し違う。
その目が。
どこか――
観察している。
そんな感じがした。
「王様」
側室が静かに礼をする。
「お忙しいご様子でございますね」
優しい声。
だが。
その言葉の奥に、何かを探る気配があった。
「……少しな」
短く答える。
なるべく距離を取る。
目も合わせすぎない。
これ以上、近づいてはいけない。
そう言われているからだ。
側室が一歩、近づいた。
「王様」
柔らかな声。
「お疲れではございませんか?」
優しい。
本当に優しい声だった。
だが――
やはり、どこか鋭い。
(やばい……)
完全に見られている。
観察されている。
そんな気がした。
そのときだった。
「王妃様がお越しでございます」
女官の声が響いた。
……は?
(え!?今!?)
タイミングが最悪すぎる。
いや。
もしかして――最高なのか?
分からない。
とにかく混乱した。
障子が開く。
王妃が入ってきた。
落ち着いた表情。
ゆっくりとした足取り。
そして――
まっすぐこちらへ歩いてくる。
迷いがない。
以前とは、明らかに違う。
(なんか……堂々としてないか?)
そう思った。
本当にそう思った。
前の王妃は、どこか控えめだった。
だが今は違う。
自信がある。
そんな感じがした。
「王様」
王妃が静かに礼をする。
そして――
俺のすぐ隣に立った。
かなり近い。
いつもより近い。
(近い近い近い!!)
心の中で叫ぶ。
だが顔には出せない。
絶対に出せない。
側室が、その様子を見ていた。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
驚いたような顔をした。
「王妃様」
側室が微笑む。
「ご機嫌麗しゅうございます」
穏やかな声。
だが。
その目は――
しっかり王妃を見ていた。
「側室様」
王妃も微笑む。
落ち着いている。
まったく動じていない。
「ご機嫌麗しゅうございます」
声も安定している。
揺れがない。
「王妃様は」
側室が静かに言った。
「最近、よく王様のお側におられますね」
柔らかい言葉。
だが――
完全に探っている。
そう感じた。
王妃は、微笑んだままだった。
そして。
はっきりと答えた。
「はい」
迷いのない声。
「王様のお側にいるのが、務めでございますから」
その言葉は。
とても自然で。
とても強かった。
(強い……)
俺は心の中で思った。
今の王妃。
かなり強い。
側室は、少しだけ目を細めた。
「左様でございますか」
小さくうなずく。
だが。
まだ探るような目をしている。
「王様も」
側室が続けた。
「以前とは、少しお変わりになられましたね」
その言葉に。
俺の心臓が跳ねた。
(来た……)
危険な話題。
完全に危険な話題。
だが。
そのとき。
王妃が先に答えた。
「ええ」
静かな声。
落ち着いた声。
「以前より、お優しくなられました」
はっきりと言った。
迷いがない。
その瞬間。
空気が少し変わった。
静かな火花。
見えない火花が。
確かにあった。
側室は、しばらく黙っていた。
王妃を見る。
じっと見る。
そして。
小さく微笑んだ。
「それは……何よりでございます」
声は柔らかい。
だが。
完全に何かを考えている顔だった。
その間。
俺は――
完全に沈黙していた。
何も言えない。
一言も言えない。
(俺……いらなくない?)
心の中でつぶやく。
完全に空気だった。
この場に必要なのは。
どう考えても――
俺じゃない。
この二人だ。
しばらくして。
側室が、ゆっくり礼をした。
「王様」
静かな声。
「ご無理なさらぬよう」
そう言った。
そして――
一瞬。
俺を見た。
長く。
じっと。
(やばい……)
その目は。
何かを確かめるようだった。
完全に怖かった。
側室は、静かに去っていった。
足音が遠ざかる。
そして。
静寂が戻る。
「……はぁ」
思わず、小さく息を吐いた。
助かった。
本気で助かった。
そのとき。
王妃が、こちらを見た。
そして――
少しだけ微笑んだ。
自信のある笑顔だった。
「王様」
静かな声。
「お疲れではございませんか?」
優しい声だった。
本当に優しい声だった。
「……助かった」
思わず言ってしまった。
完全に本音だった。
王妃は、少しだけ驚いたような顔をした。
だがすぐに。
小さく微笑んだ。
その頃。
側室は、一人で歩いていた。
静かな廊下。
誰もいない。
そして。
足を止めた。
ゆっくり振り返る。
王の部屋の方向を見る。
「……王様は」
小さくつぶやく。
誰にも聞こえない声で。
「やはり……」
少し間。
そして。
「何かが違う」
その目が、細くなる。
疑いは――
確実に強くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます