第11話 収益化配信 その4
「恨みって何さ!」
「ミック。今日洗濯籠の中を見たら服がごっそりなくなってたんだけど」
「スゥッ――――……」
[ミックやったな]
[バイバイ、ミック]
「あれ、どこやった?」
ミックの顔が、わずかに強張った。
「ムシャムシャしてやった。今は反芻している」
[草]
[ムシャクシャしてやったみたいに言うなwww]
[洗濯前の服、どこやった]
[君のような勘のいいガキは嫌いだよ]
「ご、ごめんって!」
そのとき、オークの足音が近づいてきた。
ナギは、ゆっくりと振り返った。
「「「グオォォォ!」」」
「今、話してる途中でしょうが!」
腰のホルスターからガチャ産の安物ダガーを引き抜く。刃に電気を乗せると、紫色の電光が刃全体を包んだ。
神経伝達速度を限界まで引き上げると、世界がコマ送りになる。
一体目。棍棒の振り下ろしをすり抜け、懐に潜り込む。
脇腹にダガーを叩き込み、内側に電撃を流し込むと、巨体が痙攣した。
二体目。倒れる前に踏み台にして跳躍、空中から首筋にダガーを当てて電撃を通すと倒れた。
三体目。着地と同時に回転し、電流を最大まで引き上げたダガーを胴体に押し当てる。
三体とも、一瞬で地に伏した。
戦闘技能は錆びていなかった。
むしろ、怒りのおかげで余計なことを考えなかった分、動きが素直だった。
ナギのダガーは刃が半分ほど溶けている。
安物の素材密度では電流を通しきれなかったのだ。
「とにかく! 迷宮紋の力を引き出すためとはいえ、勝手に人の洗濯前の服を食べないで!」
「あとでちゃんと返すよー」
「唾液でぬとぬとの服を返されるこっちの身にもなってよ!」
[いやいやいや、お説教続行しないで]
[今、一瞬で三体沈めなかった?]
[普通にバケモノじゃん]
[ダガー半分溶けてるんだけど……]
[これが通電の力ァ!]
[ウナギちゃんは恐怖より怒りが勝ってるから強いんじゃ……]
「……あ」
自分の手を見た。震えていない。熱くなった掌が、むしろ心地いいくらいだった。
「久しぶりだから大丈夫かなって思ってたけど、怒ってたら余計なこと考えなかったかも」
「ウナギの薄情者! ボクはウナギのこと信じて立ったのに!」
「そんなこと言われても」
ミックはだだをこねるように、その場でぴょんぴょん跳ねた。
「ウナギの意地悪! いじめっ子!」
「意地悪じゃないから」
「じゃあボクのこと大切に思ってるって言って!」
「言わない」
「やだやだやだァ!」
[駄々っ子で草]
[中層で駄々っ子って絵面がおかしいだろ]
[ウナギちゃんの対応が完全にオカンな件]
「はいはい、ごめんごめん」
ため息をつきながら、ミックの頭に手を置いた。
「帰ったらココア入れてあげるから」
「ホント!?」
「本当だよ」
「やったー!」
ミックは一瞬で機嫌を直して、ナギの腕に抱きついた。
虹色の髪がナギの腕にさらりとかかる。
体温が、肌を伝ってじんわりと広がる。
思ったより熱くて、ナギは目を逸らした。
[チョロすぎるw]
[ココアで即機嫌直るのコスパいいなwww]
[ガキじゃんwww]
[完全に母親の対応]
[¥10,000 ウナギちゃんバケモノすぎて笑った]
[¥5,000 ココア代]
[¥3,000 飯代の足しにでもしてくれ]
「皆さん、ありがとうございます! ダガーについては次からちゃんとしたやつを用意します!」
ナギは深々と頭を下げた。
後日。棍棒が直撃した瞬間のミックの顔のスクリーンショットがSNSに拡散された。
その画像は、殴りたくなることを言う奴へのリプライ画像として広まり、やがてミーム化していくのであった。
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