第15話 少女たちの作戦会議
その日の夜、激しい戦いを終えた神矢たちは近くの宿をとっていた。そして、何やら悩んでいる様子の神矢と食事を終え三人の乙女たちは密かに集まっていた。
「二人とも、真剣な話があるのですが、少し時間をいただけないでしょうか?」
フィオナが静かに切り出した。その顔には、いつもの聖女の笑みではなく、どこか緊張した面持ちが浮かんでいる。
「なんだ? まさか、あの勇者殿に何かあったのか?」
「確かにあいつ何をずっと悩んでいたわよね……幻惑で見た女でも思い出していたのかしら」
セシリアが眉をひそめて問う。アイリスも、不機嫌そうな顔はしているものの、その視線はフィオナに注がれている。
「いえ。勇者様にではありません。私たち自身についてです」
フィオナはそう言うと、周囲に他の気配がないことを確認し、声を潜めた。
「あなたたちも私と同様に勇者様の子種を欲しがっているのはわかっています。魔王すら瞬殺する強力な力……あの人の子種を宿せば優秀な子が生まれるでしょう。そして、我ら教会も、セシリア様の騎士団も、アイリス様の宮廷魔術師も皆狙うのは必然です」
「こ、子種だと……フィオナ殿何を言っている?」
「そうよ、な、何をエッチなことを言っているのよ。別に私はあいつと何て……」
フィオナの言葉に二人が動揺しているのを見てクスリと笑い、彼女は話をつづけた。
「ふふ、その表情でわかりますし、あなたたちが私と同様に勇者様を誘惑しているのも知っています。ですが、このままで良いと思いますか? 勇者様は私たちやサキュバスの誘惑にも動じなかった。おそらく何らかのスキルでしょう。というかそれ以外、私があんなに頑張ったのにスルーするなんて考えられません」
「く……確かにそうだ。あのビキニアーマーも、彼にはただの防具にしか見えていなかったのだろうな……」
セシリアもこれまでの事を思い出したのか、羞恥に顔を赤らめる。
「私がいくら積極的にアプローチしても、結局子供扱いされるだけだもん……」
アイリスは不満そうに頬を膨らませる。
「ですが、『堕ちた賢者』との戦いを思い出してください。勇者様は明らかに動揺し、誘惑されそうでした」
「確かに……あんなにデレデレした顔は初めて見たな……」
「ふん、あのスケベ男。どんな幻惑を見たのよ」
「おそらく勇者様にも弱点があるのでしょう。だからこそ、私たちは三人がいがみ合っている場合ではありません。協力しなければあの方を振り向かせるどころか……」
フィオナはそこで言葉を区切ると、意味深な視線を二人に向けた。
「……私たち以外の、別の誰かに勇者様を奪われてしまうかもしれません」
その一言に、セシリアとアイリスの顔色が、さっと変わった。
「なっ……! そんなことはさせん! 最悪一緒に冒険をしているお前たちになら奪われてもまだ許せるが、知らん奴にかっさらわれるのは私の騎士としてのプライドが許さない!」
セシリアが、まるで闘志に火がついたかのように、剣の柄を握りしめた。
「私もよ! いくらなんでも、私が頑張っている間に他の誰かに取られるなんて、絶対イヤ!」
アイリスも、ツンとした態度を崩しながら、悔しそうに拳を握る。
「ええ。だからこそ、ここは三人で協力すべきではないでしょうか? 各派閥の使者として、そして一人の乙女として、勇者様を振り向かせるために、一時休戦し、共闘するのです。お互いの行動は邪魔をしない……それでどうでしょうか?」
フィオナが提案する。
「協力……だと? 確かにそれは悪くない策かもしれん。確か私の書物に複数の女性で攻めるすべもあったはずだ」
セシリアが腕を組み、何やら興奮しながら鞄を漁り始める
「仕方ないわね……私も力を貸してあげるわ。でも、あくまで勇者様を落とすためよ。誰が一番に勇者様を振り向かせられるか、勝負なんだからね!」
アイリスはそう言いながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。彼女は、勇者にかばわれて彼の優しさに触れて以来、彼のことが頭から離れないでいた。他の二人と共闘することで、もっと彼に近づけるかもしれないという期待が、彼女の心を密かに躍らせていたのだ。
「皆さん賛成してくださったようで何よりです。とはいえ……私もあなたがたを完全に信用しているわけではないんですけどね」
「……あんたって結構腹黒いわよね」
「ふふ、聖女なんて綺麗ごとだけではやっていけませんからね」
ぼそりと呟くフィオナの言葉にアイリスがジト目で突っ込むと不敵に笑う。
「それで何か策があるのか? 見習い騎士も三人そろえば一人前の騎士に勝るという諺はあるが、無策では通じないだろう」
「もちろんです。先ほどの『堕ちた賢者』との戦いのときに気づいたことがあります。断片的に聞こえてきた勇者様とあの幻影との会話は決して性的なものではありませんでした。ですが、確かにあの人は夢中になってました。それを踏まえて……」
「ふぅん、なるほどね。試してみる価値はあるわね」
「ふむ……戦と一緒だな。時には攻め方を変える必要があるということか」
こうして、勇者神矢を巡るハニートラップ攻防戦は、彼の全く知らないところで新たな局面へと突入するのだった。
★★★
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