第12話 麻痺する正義と異変

 翌日から、パーティの戦い方はさらに過激になった。

 アルトが精神的な揺らぎを見せるたびに、カイルは冷酷な指示を飛ばす。

「迷うな。腕の一本や二本、差し出せ。お前は痛くないんだ。代わりはいくらでも魔法で治せる」

 ある日の任務。盗賊団の拠点に踏み込んだ際、アルトは罠の剣山に自ら飛び込み、仲間が通るための「道」になった。

 足の裏を無数の針が貫き、甲に突き抜ける。

 アルトは無表情に歩くが、後ろを歩くリアは、その血の足跡を踏むたびに精神が摩耗していくのを感じていた。

「もう……嫌……」

 リアの呟きは、誰にも届かない。

 彼女はアルトを治癒するたびに、彼の「人間ではない部分」に触れているような錯覚に陥り、夜な夜な自分の手を洗剤で血がにじむまで洗うようになっていた。

 そんな中アルトに異変が起きた。

 いつものように敵の攻撃を真っ向から受けた瞬間、彼は初めて「恐怖」を感じた。

 痛みはない。相変わらず、肉が裂けても何も感じない。

 だが、死んだルカの「痛いよぉ」という泣き声が耳の奥でリフレインし、一瞬だけ剣を握る手が震えた。

「……っ!」

 その一瞬の遅れが、アルトの脇腹を深く抉らせた。

 いつもなら「計算通り」の傷だ。しかし、今のアルトにはその傷口から自分の「命」という実感が漏れ出していくような、言いようのない寒気が襲った。

「どうした、アルト! 動きが鈍いぞ!」

 カイルの罵声が飛ぶ。

(痛くない……。痛くないはずなのに。どうして、こんなに苦しいんだ?)

 アルトは自分の胸を強く叩いた。

 そこには傷一つない。だが、そこが一番抉り取られたように痛い気がした。

 彼が生まれて初めて知った「心の痛み」は、彼から最大の武器であった「迷いのなさ」を奪い始めていた。

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