第5話 二人の美少女に囲まれながら紡ぐ物語
昼食を終えた、昼休み。生徒会室がある本校舎三階は、午後の陽光が柔らかく差し込む静かな空間だった。
そこには生徒会長の
他に、生徒会役員はいなかった。
「えっと……話とは何でしょうか?」
祐輝が少し緊張した声で切り出した。
「単刀直入に言うわ。あなたが成神疾風よね?」
円の言葉は、淡々としていたが、どこか楽しげな響きを帯びていた。
祐輝は一瞬目を丸くした。
「はい……そうです。俺が成神疾風です。でも、どうしてその名前を? 先輩は以前から俺が成神だとわかってたんですか?」
「いいえ、違うわ。ついさっきよ」
円は小さく微笑んだ。
「さっき?」
「ええ。あなたが書いたプロットを見た瞬間、ピンと来たの。文章の癖やリズムが、成神さんのそれと重なって。思わず声をかけてしまったの」
「な、なるほど……それ、凄いですね」
祐輝は驚きを隠せない表情を見せる。
「でも、まさかあなたが本当に成神さんだったなんて。正直、私も驚いたわ。学校内に、私がずっと読んでいた作家さんがいるなんて、なんだか運命的よね」
円の口調は相変わらず穏やかで、感情の起伏をあまり見せなかった。それが逆に、彼女の冷静さを際立たせている。
「私は昔から成神さんの小説が好きだったの。特に初期の長編が。でも途中から、短編ばかり投稿するようになったわよね。あれはどうして?」
祐輝は少し肩をすくめた。
「長編を書く勇気が、なくなっちゃって……途中で挫折するのが怖くなったんです」
「そうなのね。でも、その気持ち私もわかるわ。でも、ネットの批判的なコメントを全部真に受ける必要はないと思うわ。確かに、改善の余地はある部分もあるけど、あなたはまだ学生で、プロの小説家じゃない。ただの趣味で書いているだけでしょう? そこまで自分を追い詰めなくてもいいんじゃないかしら」
「そう……ですかね?」
「ただ、本気で続けていきたいなら、ちゃんと向き合うべきところはあると思うけど」
円の言葉は優しく、しかし核心を突いていた。
祐輝は素直に頷いた。
「それで、あなたはどうしたいの? 本気で小説を書いていきたい?」
祐輝は少し間を置いて、隣の朔菜が心配そうに自分を見ていることに気づいた。彼女の視線が、背中をそっと押してくれるようだった。
「はい。俺は……本気で書きたいと思っています」
真剣な声でそう答えると、円は小さく頷いた。
「わかったわ。本気なら、プロットや設定をしっかり固めないとね。さっき聞いた話だと、三浦さんが田村さんの設定を確認したり、アドバイスしてくれてるみたいだけど、今はどんな感じなの?」
朔菜が少し身を乗り出して答えた。
「だいぶ形になってきたと思います。あとは、田村くんがどれだけ深く設定を練り込めるか、ですね」
「私もさっきのプロットに目を通したけど、内容自体は魅力的だったわ。特に学園を舞台にした世界観がいい感じ。ただ、その設定をどれだけ深く掘り下げられるかが、勝負の分かれ目になりそうね」
円は少し考え込むような表情を浮かべた。
「せっかくここにいるんだし、一緒に設定を考えない? この部屋は他の役員も使う可能性があるから、隣の生徒会長専用の部屋に移りましょうか」
その提案に、祐輝は迷わず頷いた。
朔菜も目を輝かせている。
こうして、三人は生徒会室の隣にある、少しプライベートな空間へと移動した。
その空間は、シンプルながらも落ち着いた雰囲気の部屋だった。
学校の共用パソコンを借り、祐輝は文章作成ソフトを開いた。
画面を見、事前に書き出したストーリーの骨子をソフトに打ち込みながら、世界観やキャラクターを少しずつ肉付けしていく。
いつも一人でやっていた作業が、今は全く違うものに変わっていた。
右隣では朔菜が、左側では円が、それぞれ興味深そうに画面を覗き込んでいる。
「物語の要は、やっぱりキャラクターだと思うの!」
朔菜が、明るい声で呟いた。
「ええ。でも世界観が曖昧だと、全体のリアリティが損なわれるわよ。そこも忘れずにね」
円の声は落ち着いていて、的確だった。
祐輝は二人の美少女に挟まれながらキーボードを叩くという、普段では絶対にありえない状況に、内心でかなり動揺していた。
指先が少し震えるのを、なんとか抑えながら作業を進める。
ストーリーの核となる部分を見極め、設定を深掘りしていく。すると、朔菜がふと尋ねてきた。
「そういえば、ヒロインはどうするの? 学園ものなら、明るい子がいいとかってある?」
「うーん、どうしようかな。俺は学園ハーレム系にしたいと思ってるから、メインのヒロインは明るめがいいかなって、一応そういう案は会ったけど」
「へえ、ハーレム系なんだ」
円が興味深そうに頷いた。
「それなら、ヒロインは何人くらい登場させる予定?」
「えっと、主役のヒロインを含めて、合計四人くらいを考えています」
「四人か。それならバランスも取りやすいかもね。メインを明るい子にするなら、他の三人はどんな性格にするつもり?」
円の質問に、祐輝は少し頭を抱えた。
正直なところ、まだそこまでは固まっていない。
普段は勢いでストーリーを書き始めてしまうタイプだったから、こうして他人と話し合いながら設定を詰めていくのは新鮮で、かつ難しかった。
「まだ悩んでるところです……いろんな可能性を考えてるんですけど」
すると朔菜がスマホを取り出し、画面を二人に見せた。
「キャラクター設定って、こういうのも参考になるよ! 専用のサイトなんだけど、項目が細かくあって、埋めていくと自然とキャラが立ってくるんだ」
画面には、詳細なキャラクターシートが表示されていた。
外見、性格、バックストーリー、口調、関係性など、様々な欄がある。
「先にキャラクターをしっかり決めてからストーリーに落とし込む方がいいと思うの。田村くん、この項目を埋めていこうよ!」
朔菜の声は元気いっぱいで、祐輝の背中を押すようだった。
「それ、いいアイデアね。私も賛成よ」
円も静かに同意した。
祐輝は二人の顔を交互に見て、ふっと笑みをこぼした。
「じゃあ……早速やりますか」
こうして、三人での創作作業が本格的に始まった。
祐輝はキーボードを打ちながら、朔菜の提案する設定をメモし、円の的確な指摘を反映させていく。
ヒロインの一人目は、明るく元気な学園のアイドル的な存在。
二人目は、少しクールで知的な先輩タイプ。
三人目は、ミステリアスで内気な文学少女。
そしてメインのヒロインは、主人公に積極的に絡んでくる、明るいクラスメイトの彼女に決まっていった。
「この子、主人公の幼なじみ設定にすると、最初から関係性が作りやすいかも」
朔菜が目を輝かせて提案する。
「いいわね。でも、ただの幼なじみじゃなく、ちょっとした秘密を抱えさせて深みを出すのもアリよ」
円が補足する。
祐輝は二人の言葉を聞きながら、自分の物語がどんどん豊かになっていくのを実感していた。
世界観の細部。学園に隠された古い伝説や、キャラクター同士の微妙な人間関係も、少しずつ形を成していく。
一人で書いていた頃は、設定の浅さが原因で物語が中途半端に終わってしまうことが多かった。でも今は違う。
二人の視点を借りることで、盲点が次々と埋まっていく。
「やっぱり、設定をしっかり固めるのって大事なんだな」
祐輝は小さく呟いた。
「もちろんよ。読者は細かいところまで意外と見てるものだから」
円が微笑んだ。
「田村くん、このままいけば、絶対にいい作品になるよ」
朔菜が励ますように肩を叩いてくる。
祐輝の胸に、温かいものが広がった。
三人はまだ、熱心にキーボードの音と会話の響きを交わらせながら、昼休み時間の終わりが来るまで小説の世界を紡いでいくのだった。
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