突然元カノに振られたその日、図書委員の美少女が俺の小説のファンだと言って告白してきた件~小説家志望の俺によるハーレム生活~

譲羽唯月

第1話 フラれた俺を救ってくれたのは彼女でした

 放課後の教室に、穏やかな夕陽がオレンジ色の光を投げかけていた。

 二人きりの空間に、突然の言葉が静かに響いた。


「私と別れてくれない?」


 田村祐輝たむら まさきは一瞬、脳がフリーズしたかのように言葉の意味を捉えきれなかった。

 目の前に立つのは、セミロング風のヘアスタイルの彼女。これまで付き合っていた杉宮玲奈すぎみや れなが、いつもの明るい笑顔を完全に消し、冷ややかな視線を向けていたのだ。


「え……?」


 昼休み時間には他愛もない会話を交わしたり、寝る前にはメッセージアプリでくだらないスタンプをやり取りしていた。

 あの日常が、まるで遠い夢のように感じられる。


「聞いてる? 別れるって言ってるんだけど」


 玲奈の声に、わずかな苛立ちが混じった。

 祐輝は慌てて言葉を探した。


「ど、どうして……? 昨日まで、普通に楽しかったと思うんだけど」

「あー、それね。もういいかなって思っちゃったの。友達の紹介で付き合い始めたけど、なんか刺激が足りないのよね。平凡すぎるっていうか……正直、あなたって特別なところがないし、私の彼氏としてはちょっと物足りないし。そういうこと」


 その言葉は、容赦なく胸の奥深くに突き刺さった。

 祐輝は目を大きく見開いたまま、固まることしかできなかった。

 反論の言葉すら浮かばない。


 玲奈の視線はすでに、祐輝ではなく教室の入り口の方へ移っていた。

 すると、タイミングを計っていたかのように扉から入ってきたのだ。入ってきたのは、同じ学年の男子──生徒会副委員長の海藤竜之介かいどう りゅうのすけだった。


 軽くウェーブのかかった髪、制服を少し崩した派手な着こなし。整った顔立ちに、優秀な成績と抜群の運動神経。

 教師たちからも多少の服装の乱れは見逃されるほど、周囲からの人気は圧倒的だった。


「あ、終わった?」


 竜之介が気軽に声をかけると、玲奈は即座に表情を明るく変えた。


「うん、今ちょうどね」

「へえー、なんでこんな地味な奴と付き合ってたんだよ?」


 竜之介の軽い言葉に、玲奈は肩をすくめて答える。


「ただの紹介だったから。最初はまあまあだったけど、ただ優しいだけじゃつまらないよね。趣味がラノベとかアニメとかで、私には全然合わないし。愛想笑いでごまかすのも面倒になってきたってところ」


 彼女の本心が、はっきりと伝わってきた。

 最初から本気ではなかったということだ。

 玲奈はそう言いながら、竜之介の右腕に甘えるように絡みついた。

 その見せつけるような仕草に、祐輝はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「まあ、俺らこれから用事あるから。じゃあな、陰キャ」


 竜之介は涼しい顔で辛辣なセリフを残し、玲奈を連れて教室を去っていった。

 足音が遠ざかり、再び静けさが戻った教室に、祐輝は一人取り残されたのだ。

 現在、夕暮れの五時を少し過ぎた頃。

 頭を抱え、胸の奥に広がる虚しさと虚無感に、祐輝はただ耐えるしかなかったのだ。 




 帰宅前、祐輝は別棟の図書館に立ち寄ることにした。

 バス通学の祐輝にとって、平日のこの時間は次の便までかなりの間が空く。

 四時四十五分のバスに乗り遅れてしまった以上、六時少し過ぎまで学校で時間を潰すしかない。


 重い足取りで階段を下り、一階の廊下を進み、中庭を横切って別棟へと向かった。

 二階にある図書館は、放課後の憩いの場のような場所だった。

 本を読む者、勉強に励む者、部活の終了を待つ者。さまざまな人が、それぞれの時間を過ごしている。


 図書館の扉をくぐった瞬間、カウンター席に座る一人の女の子と目が合った。

 ショートカットの黒髪が特徴的なクラスメイトの三浦朔菜みうら さくなだ。

 祐輝は軽く会釈をして通り過ぎ、空いているテーブル席に腰を下ろした。


 スマホをマナーモードに切り替え、手に取る。

 祐輝は中学二年から小説投稿サイトで執筆活動を続けていた。


 ペンネームは成神疾風なるかみ はやて


 毎日コツコツと作品をアップしていたが、最近はPVの伸びが芳しくない。

 自分では面白いと思っているのだが、読者の心に響かない。

 長編に挑戦したい気持ちはあったが、失敗を恐れて短編ばかりを繰り返していた。

 さらに最近はアンチコメントが増えていた。


 つまらない

 情景描写が薄い

 設定が破綻している

 内容が中二病過ぎてリアリティがない


 そんな辛辣な言葉が並び、閲覧数も右肩下がり。心がすり減り、投稿をやめようかと考えた夜も少なくなかった。

 それでも、細々と続けているのが今の状況だった。


 バスが来るまでの約一時間。祐輝はマイページを開き、今投稿予定の短編を推敲し始めた。

 集中していると、背後に視線を感じて振り返る。そこに立っていたのは、先ほどカウンターにいた朔菜だった。


「もしかして……その小説、田村さんが書いているの?」


 彼女は小さな声で尋ねてきた。


「えっ⁉」


 突然の言葉に、祐輝は思わず声を上げてしまった。

 朔菜は少し照れくさそうに微笑む。


「田村さん……だよね? 私、田村さんの作品の大ファンなんだよね」

「え、ええっ……?」


 祐輝の心臓が大きく跳ね上がった。

 まさかクラスメイトに正体が知られているとは、夢にも思っていなかった。


「私、昔から読んでて。特に長編が好きだったんだけど……最近、長編を書いてないよね?」

「う、うん……いろいろあって……」


 祐輝は言葉を濁した。

 朔菜は少し身を乗り出して、明るい声で続けた。


「もし困ってるなら、手伝いたいんだけど……それと、私でよければ、付き合ってもらえないかな?」


 突然の告白に、祐輝は息を飲んだ。

 ついさっき振られたばかりの心が、まだ疼いている。

 それなのに、目の前の彼女の瞳は真っ直ぐで、温かく優しかった。


 朔菜の頰がわずかに赤らむ。図書館の柔らかな照明の下、二人の間に静かな緊張が流れた。

 祐輝は、驚きと喜びと戸惑いが混じり合った複雑な感情を抱きながら、彼女の顔を見つめ返すしかなかった。 


 教室での痛ましい出来事から、わずか一時間足らず。人生が大きく揺らぐような出来事が、立て続けに祐輝を襲っていた。

 失ったものと、新たに差し伸べられた手の温もり。まだ何も答えを出せないまま、夕暮れの図書館は静かに時を刻み続けていた。

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