NOTE:とある整備兵の日記
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月9日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
信じられない。
いったいこれはどういうこと?
イカロス改修計画が一時見送り?改修場所およびチームを再検討?
明日からの改修に向けて段取り合わせも始まってるこのタイミングで?
ありえない。
わざわざこっちはこのクソ忙しい時期にスケジュールを変えてまで対応してやってんのよ?班長や基地司令とも話し合って何とか予定を整理して、ようやく実現の目途が立った大仕事なのよ?そんな簡単にやるだの止めるだの、上がそんな調子で現場の人間はどうやって働けるっていうの?
……でもね、本当に許せないのはそこじゃない。
キリアン・グラムス中尉。
私は聞いちゃったの。たまたまその時ルーカス少佐とキリアン中尉の話し合いの場に居合わせた警備部の曹長が話してくれて、本当かどうかはまだ分からないけど、計画書を見ていたキリアン中尉が突然私達がイカロスを改修することに不満を言い出して、それを聞いたルーカス少佐がイカロス改修計画の一時見送りを決定したって。
それが事実なら……私達が必死で働いてるのは何だったんだろうと思ってしまう。あのおっさんの一声で全部めちゃくちゃにされるほど、私達の仕事は軽いものだったの?
事実がどうであれ聞かないと。
でも私とキリアン中尉じゃ階級差がありすぎる。まずは何人か整備兵の友達に話を通すところからね。
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月10日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
結論から述べるわ。
キリアン・グラムス中尉は黒ね。真っ黒よ。
私ね。どんな言い訳が出てくるんだろうと一周回って期待してたの。
仮にもあのおっさんは士官学校出のパイロットで中尉なのよ?まさかあれだけ準備が大変だった改修計画を土壇場で止めようってんだから、どんな理屈を並べ立てるのかと期待してたのよ。そして本当にちゃんとした理由があるなら、私も素直に引き下がるつもりだった。
でも……あれはいったい何なの?
理由は言えない?少佐が悪い?
馬鹿も休み休み言いなさいよ。あんたそれでもパイロット?
私と同じことを思ったんでしょうね。近くにいたトム・マクレガー中尉も私に味方してくれて、二人がシミュレーターで対決することで決着をつけることになったわ。
なんだか思った以上に大事になった気もするけど……こういう時はその場の流れに乗るしかないわよね!がんばれトム中尉!ファイト!
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月10日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
失敗した。
どうして……どうしてこんなことになったんだろう。
いや、本当は分かってる。
私が悪かった。
私は馬鹿だった。
私、浮かれてたの。数か月前伍長に昇進して、後輩もできて、整備班の班長や雲の上の存在だった基地司令とも少しずつかかわるようになってきた。ようやく自分もプロの整備兵なんだって、胸を張って言えるようになったんだって、そう思ってた。
イカロス……あれはとんでもない代物だった。
改めて仕様書をじっくり見返したわ。今度はヤマノ博士が送ってきた、より分かりやすく整理しなおした資料も一緒に目を通しながら。
違う。全然違う。
同じMECHなのは間違いない。なのにその……レベルが高すぎる!
ヤマノ博士は間違いなく天才よ。私も単なる整備兵だから機体のことを全部わかってるわけじゃない。それでも、その細部まで彼が徹底的に考えに考え抜いて設計を行ったのはよく分かった。現場で可能な限り簡単に取り扱えるように工夫された新機軸の設計がいくつも盛り込まれていた。今まで扱ってきたメックワーカーと、全く違う機体なんだって錯覚するほどに。
イカロスは機体のすべてを新造パーツで構成している。いくら何でも残り数日でその仕様を全部把握して改修までしろなんて無理。
キリアン中尉の心配は正しかった。
私達にあの機体は扱いきれない。
悔しかった。
……でもね。結局この騒ぎを基地全体を巻き込む騒動にした私達にお咎めは最後まで来なかった。
例の少佐が……ルーカス少佐が私達に謝ってくれたから。
信じられる?少佐って言ったら、企業で言ったら大企業の社長とか、そのレベルの人物なのよ?それが大勢の兵士達の前でヒラの整備兵に過ぎない私達に頭を下げて謝罪したのよ?誰が文句を言えるっていうの?彼のおかげで全部の騒ぎは丸く収まり、後で事の経緯を聞いた基地司令も事態を穏便に済ませることにしたらしいわ。
ああもう……何この気持ち!
ちょっとズルいわよ!あの少佐よく見なくても分かるくらいにはイケメンだし、性格も同僚の馬鹿ブラザーズと違って落ち着いてるし、そんな少佐にあんな……あんな顔で頭を下げられたら……こんなのまるで、暇なとき読んでる恋愛小説みたいじゃない!
《この後の日記にはアヤンダ伍長の三日に渡る葛藤が数万字の文章で記述されている》
《省略》
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月19日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
あの馬鹿共は!よりによって外部の人間がいる前でなんてこと言ってんのよ!
ああああ人生終わった。終わりだ。終わりなんだもう。
ありえない。私なんかがルーカス少佐を好きになっちゃったなんてことがあのおっさんにバレただけでもノーヘルで宇宙に飛び出して絶叫したいくらいなのに、オマケでなんてこと言ってんのよ私!
あああああ、憲兵が!扉の向こうに憲兵が!
軍法会議!銃殺刑!
あああああああああああああああ
《省略します》
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月20日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
なんかばれなかったらしいですまる
よかったですまる
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月21日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
いけええええおっさんんんんん!!!!!
あのスカしたジジイに目にも見せてやれえええ!!
ついでに任務中どっか頭を打って記憶も一緒にトんでくれええええ!!
─NOTE_DATA─
Time:西暦2209年9月21日
Recorder:アヤンダ・クマロ
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
ファック。
今度の今度こそ、本当に私は意味が分からなかった。
ルーカス少佐が、ルーカス少佐が話しかけてきた!私に!私によ!?
どうなってるのこれ?
なんでも今日の任務の成果を祝うためにキリアン中尉にちょっとしたサプライズをしてあげたいみたい。
そこで私の力が必要なんだって!
理由を聞いて納得よ。整備班のみんなを整列させて敬礼なんて、みんなと顔見知りの私じゃなきゃたとえ少佐の提案でも自然に話を通すのは難しいでしょうね。キリアン中尉にも貸しがいくつもあるわけだし、何よりこれは夢を現実にするチャンスなのよ!
女アヤンダ、青春かけて頑張ります!
—META_DATA—
Logs:Mech Battler Crisis
Title:とある整備兵の日記
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