LOGS:新時代の戦術
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月16日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
「……これが、ヘラクレスの……旗艦」
その日俺は、駐屯地の宇宙港に入港してきた一隻の軍艦を見下ろしていた。
決して大きくはない。治安維持軍地球駐屯軍の正規艦隊から譲渡されたフィッシャー級駆逐艦。全長は150m程度、近年の空間機動ユニット脅威論に影響を受け、多方向への柔軟な機動力や対空能力強化が図られた新型主力艦……それでも全長200m超えの巡洋艦やそれより上の主力艦と比べて見劣りしているのは否めない。
だが失望、落胆、そんな感情はなかった。
地球駐屯軍所属第101独立機動艦隊ヘラクレス。
最初にして現状唯一のパイロット。
それが、俺の今の肩書だった。
「今はまだこの1隻だけです。このあと移動しながら補助艦艇とも合流します……あとはヤマノ博士ですが、彼もヘラクレスの技術アドバイザーとしてバックアップについてくれることになりました」
「……最初の作戦は?」
俺は真っ先に気になっていたことを尋ねると、ルーカス少佐も質問が来るのを分かっていたかのように淡々と説明を始めた。
「状況が思った以上に芳しくない。惑星間航路を中心にアンタイオスの犯行と思われる民間船襲撃事件が増え続けています。しかもやつらの手口は巧妙。どんな形でもいいから世間にアピールできる目に見えた戦果がほしいというのが上からのお達しです……困るんですよね。こういう極端な期限をつけられるのは」
「……そうですね」
いつもと変わらぬ笑顔でサラッと言う少佐。
しかしその極端な期限を取り付けられた結果、もう少しで大事故になりかけた現場をつい先日見てしまった俺には笑えない冗談だった。
『ルーカス少佐、出港準備できました』
「わかりました、チャン・ウェイ大尉。すぐに艦橋まで向かうから待っていてください」
ルーカスは艦隊副司令に着任した中国人大尉から報告を受けると足早に歩き始めた。
「おい!」
俺は二人について行こうとすると、突然呼び止められる。振り返るとそこには基地司令の大佐が立っていた。大佐は特に何も言わず、あのキーホルダーを投げ渡してくる。
「これは……!?なんで」
「やつの遺族に渡そうとしたんだがな。今日になって返事が来たよ。あいつが自分の身体と引き換えにして残したものを、棺桶に入れて燃やしたくない、そうするくらいならあいつと仲の良かった人に渡してほしい……だそうだ」
「……俺以外にもいくらでもいるでしょう?」
「かもな。だがこのキーホルダーを誰が渡すかという意味なら、お前以上の適任はいないと思うんだが、な」
司令は意地悪く口角を上げ、精いっぱいの笑顔をつくる。
それこそが、司令が俺に対してできる最大限の気遣いだった。
——
『ようこそおいでくださいました!これが、わが社が保有する最新鋭工作艦タイカです』
「……うちらの艦よりでかくないですか?あれ」
「実際デカいですよ。全長200m超で重量4万トン、でもあくまで民間船ですし、やってくれるのは補給と後方のバックアップまで」
それでも、俺は思わず呆れを含むため息をつかざるを得なかった。この前会ったときのヤマノ博士はあんなにオドオドとしていて頼りなかったのに。今通信に出たときだって、前回会ったときとは別人のようだ。
俺とルーカス少佐を乗せた連絡艇はそのまま工作艦の格納庫に通された。カツカツと小気味よい足音を立てながら俺と少佐は工作艦の内部に広がる巨大な空間を歩き続ける。
「……これが……イカロスなのか……?」
「なるほど、さすがメックと言ったところです……しかし、それでもこの短期間でここまでの改修を行えたのはやはり博士の技術あってのことでしょうね」
「君に褒められるのはうれしいね。若い奴らの足を引っ張らないように今後も頑張らせてもらうよ」
イカロス。背部スラスターユニットを利用した超高機動戦闘を主眼に開発された治安維持軍最初のバトルメック。人型の素体に、まるで翼のような一対のスラスターユニットを装備したヒロイックなシルエットは、バカみたいに巨大で無骨な追加スラスターユニットに侵略され、大きく景観を損なっている。
それだけでもひどいものだが、ここからさらに左右一対のシールドユニット、大出力ビーム砲、ミサイルポットが取り付けられ、まるで動く要塞の如き様相を呈している。
……こんな事があっていいのか。
確かに部品は全部既製品の寄せ集め、それはわかる。だがこれほどまでにバラバラのパーツを一つの兵器として結合させるのは容易なことではない。たかだか1週間にも満たない期間で終わっていい作業ではない。
「わかりますか、中尉。このバトルメックがどれだけ軍事的に脅威的存在であるか……」
ルーカス少佐は改修されたイカロスを見上げながら言葉を続ける。
「最強の後出しジャンケン。どんなに優れているように見える兵器でも、常に弱点はあり、バトルメックはそれに対して完璧な対策をとることができるよう進化し続ける。それも完璧に。バトルメックが普及すれば、常に一定の性能しか発揮できない従来型兵器は早晩意味をなさなくなるでしょう」
少佐は振り向き、俺の目を見据える。
「結論はシンプルです」
脈略のないルーカス少佐の発言に、俺は戸惑い彼の方に向き直る。
「十のばらばらに行動する敵に一の戦力で立ち向かうなら……その一には、十の敵が行動を起こす前にこれを叩く絶対的な機動力を持ってもらう」
「それはまた……暴力的なプランですね」
少佐は俺の最大限のお世辞を何食わぬ顔で笑って流し、そして自分でこう補足する。
「プランとすら呼べませんよ。しかしもとより出されているのは無理難題。無理を押し通すには道理を蹴り破る暴力が必要です。機体は用意しました。あとは中尉、あなたの実力にかかっています」
「それは……」
『何も考えるな。ただひたすら突き進めばいい。そうすりゃいつか、かわいそうな誰かさんが救われることもあるだろうさ』
あぁ……そうだな。
俺はトム・マクレガー中尉の言葉を思い出す。
結局俺にはロボットしかないのだろう。何も考えず、ただひたすらに、自分の実力だけを頼りに突き進むしかないのだろう。
しかし……こいつは俺を裏切らない。
《推論中……終了》
《世界が男を裏切っても、メックは決して裏切らない》
「……笑ってますよ。中尉」
俺はただ、イカロスを見上げる。
—META_DATA—
Logs:Mech Battler Crisis
Title:新時代の戦術
——
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