虹猫ういの大冒険
虹猫うい
第1話 気ままに
気がつくと、ういは猫であった。
なんの話かというと、猫に生まれたからだ。
前世では人間だったかもしれないし、ドラゴンだったかもしれない。
しかし、猫のういはそんなのむずかしくて分からないんだ。
その代わりに、ういは自慢の鋭い爪で川の魚を釣り上げることにした。
パチ、パチ、パチッ!
魚の反応を見ていたういは、一気に魚の体に爪先を打ち込んだ。
そのまま腕を持ち上げると空を飛ぶ魚ができあがった。
果てしなく広がる青空にきらめく虹の宝石。
銀色の鱗が光を反射して虹色の輝きを放ったのだ。
ういは虹色が好きだった。
気分がいい時には自分の体からも虹色がにじみ出すから。
こんなに感傷に浸っていてもいいのかって?
大丈夫、猫は早いから!
ういが反対の腕を振ると、魚は空中で皮、肉、骨に解体された。
皮は皿になって骨は装飾となり地面に落ちる。
部位ごとに色合いが異なる魚の身から高級感が溢れ出した。
あとは美味しく食べるのみ!
しっぽをひらひら揺らしながら今日選んだ魚の味を評価する。
プリプリする食感、脂の乗った旨み、できたての新鮮さ。
猫まるをあげます! 合格!
魚を半分くらい食べ終わったういは、そのまま森の方へ向かった。
残り半分はどうするって?
それは知らないんだ。なぜなら……猫だから。
後日、鱗は物好きな収集家の手に渡り、ドラゴン級の魚が現れたとかなんちゃら言っていたようだが、それはさておき。
ういはひたすら獣道を歩いた。
この道はういの好きな散歩道だった。
歩いて暇になる頃には、角うさぎが出てくるから。
ガサ、ガサガサ
案の定、茂みから角うさぎが飛び出してきた。
ういとうさぎは睨み合った。
ドラゴンのような黄色い猫の目と無害そうなうさぎの黒くて丸い目。
この瞬間、ここでは激しい心理戦が行われているのだろう。
どうすればこの猫から逃げることができるのか。
逆に今すぐ突撃して角の角さをわからせるべきなのか?
一方、ういは何も考えていない。なぜなら、何も考えていないからだ。
普段ならお腹いっぱいでも動くものは獲物として狩るはずだが、食事の直後だし元々一貫性なんてないのだ。
ゆえに、先に動いたのは驚くべきことにういの方だった。
考えすぎると行動も鈍くなるもので、時には何も考えずに行動する必要があるのだ。
ういの素早い体が可憐なうさぎを襲う!
「にゃ!」
目を覆いたくなるような残虐な行為に、草木もザザザッと
「ぴっ」
そして、ついにうさぎも断念して鳴いた。
抵抗の末、動きを止めた角うさぎだったもの。
「ぴっぴぴ」
うさぎは文句を言いながら失われてしまった角の跡を撫でた。
そんな文句など聞くはずもないういは、角を自分のおでこに当ててみるが、何も起こらなかった。
角猫にでもなりたかったらしい。
できないと悟ったういは、使った爪を角で整えてからあっさりと投げ捨てた。
その後、ういはうさぎの背中に乗り込んだ。
「にゃにゃ」
「ぴぴ」
前に手を向けると世界が自動的に前へ進んでいった。ドラゴンも驚くような便利な発想だ。
ういはまた、前へ前へと進んでゆく。
誰もがうらやむ平和を楽しんでいると、異変が起きた。
クググググ……
地響きとともに強い風が吹き荒れ、草木がざわめき始めたのだ。
何かな、とじっとしていると、動物たちが現れて逆方向に走り出した。
あっという間に起きた事態に反応することもできずにいると、空から巨大な影が降りかかってきた。
吹く風に曲がるほど揺れる木々、見え始めた赤くて全てを燃やしそうな翼。
レッドドラゴンだ。
ドラゴンの話をしていたら本当にドラゴンが出てしまった。
「小さきものよ、そなたは逃げないのか?」
ういは考えた。
「小さきものってなに? ういはういなのに」
ういの世界観で一番大きいのはういだったので話にならなかった。
なので、ういは「小さきもの!」と、うさぎを叩いた。
しかし、うさぎはすでに石のように硬くなったあとだった。
「面白い」
地面に着地したドラゴンは、全身が輝き始めると体が次第に縮んでいった。
そして現れたのは、長い赤毛をなびかせ、全身に艶を帯びた、優美な少女だった。
「それで、ういよ。妾が怖くないのか?」
自分を呼ぶ声に、ういは考えた。
「きらめくのはおいしいのに、なめたいな」
「舐める? この妾を? フハハハッ」
なぜか考えるだけで話が通じているが、ういの反応にレッドドラゴンは愉快になった。
「軽く散歩するだけで騒ぐ連中の中で、こんなヤツがいるとはな」
レッドドラゴンがういの近くまで来てういを撫で回すと、気分が良くなったういはゴロンゴロンしてドラゴンの手を舐めた。
ドラゴンの味は甘味のある冷たい果物の味だった。
「妾の名はヴェルメイユ・スカルプ。よろしく頼む」
そう言ったヴェルメイユは猫のういと角のないうさぎを両手に抱え、家のドラゴンレアに帰るのだった。
ういはそんなのどうでもいいと言わんばかりに、ドラゴンの甘みを楽しんだ。
そうやって、ういはドラゴンに誘拐されたのであった。
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