カクヨム黙示録 ~「こっそり誤字報告」が示唆する運営サイドの狙いと未来図~
湾多珠巳
序と主論
四年前、私がカクヨムを始めた当初ですが、たまたまとある作品を目にする機会がありました。創作論ジャンルの連載エッセイだったと思います。
正直、ちょっと引きました。その文章は、創作論というよりはカクヨム論というような内容で、中身はと言えばこの投稿サイトのさまざまな動向や裏話、スキャンダルめいたことや生臭い情報がてんこ盛りで、正直、まだ投稿サイトの何たるかを把握していない自分には、読んでてついつい距離を置きたくなるような癖の強さみたいなものを感じたものでした。話としては聞いて損しないんだろうけど……こういう空気にはあまり触れないままでいたいなあ、と。
そう、あの頃の湾多は典型的なノンポリでした(え? 「ノンポリ」って死語だった?)。とにかく、自作を発表できるタダのネット空間があるだけで十分なんだからさあ。もうそれ以上の、交友関係の構築がどうとか、投稿サイトのあるべき姿とか、どうでもいいじゃ~ん、みたいな? よく言えば謙虚、悪く言っても無欲、という感じで、とりあえず、明日は誰か一人でも読みに来てくれればいいなあ、てなノリだったんですね。
――という、その同じ人間がねえ。
よりにもよってカクヨム百数十万ユーザーの先陣切って、サイト空間の真ん中で運営に聞こえるよう陰口をぶちぶち囁くような、昭和中期のマンガに出てくるオXハXの真似なんぞをする羽目になるとは。
「まあ奥様、お聞きになりました? 先日のあの通達! こっそりなんとかってやつ! ほんとにねえ、いかにもいいサービス始めましたよ、みたいな愛想のいいこと言っといて、その中身ですよ中身。もうワタクシ、開いた口が塞がらないったら! あの運営もねえ、つい最近まではかわいらしいヒヨコか何かみたいな媚び媚びのイメージとかも見せていたのに、しょせんは肉食ハシビロコウか何かだったんですよ。ほんとに、どんな育てられ方をしたんざんしょ。親会社の顔を見てみたいものですわあ」
……四年前に読んだエッセイなどよりも、さらにゲスな真似に手を染めてはおらんかね? はっ、落ちぶれたもんだ。
なんていうムダ口はともかく。
本文の内容をざっと紹介すると、ひとことで言えば上からの通知に対する過剰気味の深読みとそれに基づく未来予測です。人によっては「また迷惑な電波文垂れ流してるな」と思うかもしれないし、私も実際にそうであればいいと願っています。
が、かねがね感じてきたこのサイトの「いわく言い難い空気」を鑑み、その上で最悪の読みを展開していくと、非常に高い可能性で以下に述べるようなことになるのでは、という思いを禁じ得ません。
順を追って話しましょうか。まず最初に事実の確認からです。作品説明にも書きましたが、さる三月末日、カクヨム運営から一つの通知が発せられました。以下の内容です。
「こっそり誤字報告ができるようになりました。」
https://kakuyomu.jp/info/entry/secretly_report
この文はもうすでに読んだぞ、という方もおいででしょうし、もしかしたら今初めて知った、という方もいらっしゃるかも知れませんが、よっぽど念入りに読んだ方は別として、一度ここでしっかり内容を確認してもらえないでしょうか。以下、充分に中身を理解してもらったものとして、この先の論を進めていきます。
……よろしいですかね? よろしいってことにしておきますよ。
さて、何か気になるところはありませんでしたか? 実を言うと、カクヨム内のコメント欄ではとっくにこの件に触れている例もあるようなんで、「今さら何を」とお思いになる方もいらっしゃるかも知れませんが……前述の記事中には、ぜひ注目してもらいたいところがあります。ここです。
応援コメント
作品への肯定的な感想や、作者の方への温かいエールを送る場所です。
こっそり誤字報告
読書中に見つけた誤字かもしれない報告を、作者の方だけに直接届ける専用フォームです。
応援と報告の窓口を分けることで、コメント欄がよりポジティブな意見で溢れ、温かい場所になることを目指しています。
(中略)
修正提案
誤字や脱字の修正提案をすることができます。
(中略)
誤字以外の本文の内容についての修正提案を行ったり、修正を強要するような行為はご遠慮ください。
今後は誤字報告を応援コメントに記入しないようにお願いします。
応援コメント、こっそり誤字報告ともに、不適切な内容が送信された場合には運営側の判断で削除することがあります。
おわかりでしょうか? 離れた項目の中で、それも他の内容に紛れるような書き方をしている、またはつい読み流しそうな提示の仕方をしているために、これはそういうことだとストレートに理解しそびれた方も多いかも知れませんが、このハイライト部分をより明確に言い直すと、以下のように表記できます。
・我々運営は、「応援コメント」欄に書かれるべきことは「作品への肯定的な感想」及び「作者の方への温かいエール」のみであると明言する。
・作品の感想としてネガティブなものがあるとすればせいぜい些細な誤字報告にとどめるべきで、それは「こっそり誤字報告」ですべて行われるものとする。それ以外のネガティブ内容のコメントは、削除対象となると受け止めてもらっても構わない。
おかしいですか? 話をとんがらせ過ぎてますかね? 別に冷笑家タイプの人でなくても、ドライに要約すればこういうことだと納得してもらえると思うんですが。
って言うかね。
>誤字以外の本文の内容についての修正提案 (中略) はご遠慮ください。
>今後は誤字報告を応援コメントに記入しないようにお願いします。
(以下二行、角太ゴシック72ポイント)
そういうことを項目の真ん中にこそっと入れてんじゃねえよ!!!
冒頭に書けよ! むしろタイトルにしろよ!!
いや、この文章、もちろん他に議論すべき大きな部分をはらんでいるんですけど、今はまずここを押さえていただきたい。
この通知文は、実のところ、新機能の単なる説明書きじゃなかったんです。少なくとも、明らかにその範囲を超えている内容を、それも各ユーザーのアカウントの存続にも関わりかねない重要事を、わざわざ目立たない位置に明記してます。
詐欺、とまでは言いませんけど、何と言うかね、引っ掛ける気満々の文章じゃありませんか? 何かあった時に「え、通達出したよ、読んでなかったの? 運営からの通知はしっかり目を通してって、最初から言ってるよね?」とか言い訳するためのあからさまな伏線っぽいというか。
やや当てこすりめいた表現でしょうが、思うにカクヨム運営は、今回の「こっそりなんたら」の導入をいい機会として、「コメント欄 総お花畑化運動」を本格化させる腹なのではないでしょうか。ありとあらゆる通信欄をポジティブな言葉であふれかえらせ、どんなレベルの書き手にも心温まる激励のコメントのみ手にできるような、そんなサイトにするつもりで。
で、「カクヨム」に行けば誰でも励ましてもらえる、みたいな路線を売りにして、「なろう」や他のライバルサイトと差別化を図ろうとしている……という深慮遠謀なのでは?
さあ、読者諸氏にはここらで私の申し上げたいことが見えてきたと思いますが、人によっては同時に疑問を感じ始めてもいるのではないかと思います。「そもそもあんたはなんでそんなにネガティブ寄りのコメントが書けなくなることに大騒ぎしとるの?」と訊きたくなってる方も、あるいは多数いらっしゃるでしょうか。
ごもっともな質問ではあります。まず念を押しておきますが、私自身は基本、他人様宛のコメントはポジティブ内容を基本とすべきだと思っておりますし、度を超えた批判コメントはもちろん論外であると同意しますし、どこらへんまでが是でどこからアウトかの線引きは、相手をよく見極めて毎回慎重になされなければならない、とも考えています。
でも、だからと言ってあらゆるコメント欄を全部褒め言葉だけで埋め尽くして、その作者にしろ、作品にしろ、成長していきますかね? 幸せになれますかね?
それこそが自分の望みです、と明言する方もいらっしゃると思います。その意志は尊重しましょう。皮肉でなく。
ですが、おそらくは少数ながらも「褒め言葉よりむしろ改良案をくれ。問題点を指摘してくれ。がんがん議論させてくれ」というユーザーも存在します。
私が盟友と恃んでいるあるフォロワーさんは、常々「誉めるべきでないところで誉める読者は、その書き手をダメにする」というようなことを書いておられます。全く同意します。文章力の研鑽は賛否のバランスの取れたコメントがもらえてこそだと思います。そして、私一人がおめでたく誤解しているのでなければ、私の周囲はそういう価値観をよしとする作家さんが比較的多く出入りしています。
もちろんポジティブな箇所を探し出して真摯にコメントしてくださる読者はありがたいですが、それと同じぐらい、的確なネガティブコメントをくださる読者もありがたい。ここは少し流れが悪かったね、原因はこうだろう、と忌憚なく議論できる評者は、何ものにも代えがたい存在ではないでしょうか。
なのに、今回の運営からの通知をまともに受け止めると、私たちのこれまでのような自由闊達なコメントの交換は不可能ということになります。おそらくは、運営からの削除によって。
自分が書き上げたコメントが人知れずボツになるというのも困ったものですが、もらう立場から見て、読み手からの心の乗ったコメントがなかったことにされるというのは実に申し訳なく、また理不尽なものに感じます。というか、そもそもコメントをもらったという事実すらわからないままなのかもしれないのです。
おそらくは、いくつかの例が明るみに出るにしたがって、とりわけ私の周囲などは自粛モードになるでしょう。そこから工夫しながらのやりとりはとりあえず可能かも知れませんけれど、さて、そのような執筆生活でどれだけ充実感を得られるものなのか。
あえて問います。これは一種の言論弾圧ではないでしょうか? それが言い過ぎなら、価値観の押し付けでは? 「もちろん褒めてもほしいけど、同じぐらいダメ出しもほしい。そういうやりとりで腕を磨きたいし、作品もブラッシュアップしたい」と望むタイプの書き手は、カクヨムから出て行けと言うことでしょうか?
私たちは、少なくとも私自身は、明らかに望まれてもいない批判コメントを相手の意向も無視して投下するなどという行動を是とするつもりはないし(まあ、そのあたりの判断に失敗した例などは少なからずあったとしても)、そもそも私たちのスタンスを唯一絶対などと持ち上げる意図もないし、その価値観をノーと明言している相手に押し付ける意志もありません。ただ、自分たちはこういう流儀でやってる、ということだけ認めてくれさえすればいいのです。
この四月からは、それすらも叶わない、ということでしょうか?
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