1665年のロンドン、ペスト対策としての強制封鎖という史実をベースにした設定がまず生々しいです。感染者の家に釘を打ち、赤い十字架を描いて閉じ込めるという非情な法令の描写から、当時の社会がどれほど人間性を失っていたかが伝わってきます。
両親を失い密室に取り残されたエララと、賄賂で財を成す検疫官トマスという対照的な二人が、絶望の街でやがて交わっていく構図に引きが感じられました。犬猫の虐殺やオカルト医療など、容赦のない描写を通じて人間の愚かさを直視させる筆致は重いですが、その先にロンドン大火という「すべてを焼き尽くす」結末が待っているという構成にも引力があります。
残酷描写・暴力描写を厭わず、極限状態の人間の業を真正面から描こうとする歴史サバイバルとして、読み応えのある一作だと思います。