43.奇襲

 朝の六時半頃。


 真道幸輝、リゼ、セレナ・グレイスはナラタ村を出て森の中を歩いていた。

 朝日のおかげで木々の間から差し込む光が周囲を照らしてくれる。


 幸輝は時には長くなった雑草をかき分けながら、


「なあ、道はこれで合ってんの?」


「ええ。この辺の地図を見せて盗賊に詳しい場所を吐かせたからね。細かくは難しいけどおおよそは合ってるはずよ」


「ちなみに誰に吐かせたんだ?」


「バロッグ。仲間の安否を不明確にしつつ風魔法で服とか髪を適当に切り刻んだら半泣きになりながら言ったわ」


(……あの戦闘狂のバロッグを問答無用で半泣きにさせるって……え、えげつねえ……)


 真道幸輝、若干引き気味である。

 あんな死闘を繰り広げた相手の尊厳を難なく崩落させてしまうのがラーノ一番の実力者という事か。村を出る前にバロッグに会わなくて正解だった。もし会ってたら服も髪もめちゃくちゃにされた彼を見て敵ながら同情してしまうとこであった。


「惜しむらくは魔物の方の見た目については分からなかった事ね」


「バロッグの事だからそこまではさすがに話さなかったとか?」


「いや、というより下っ端も含めてその魔物を見た事ないんだって。会った事があるのはリーダーのザオロだけみたい」


 これではリーダーのザオロとは手を組んでいたとしても、その部下達には一切心が開いていないとも取れる。

 いいや、魔物だからザオロとすら本当に信頼し合っているかすら怪しい。


 これじゃ信頼関係なんてあってないようなものだ。利害の一致か何かで一時的に手を組んで、タイミングが来たらどっちかが裏切るなんて事も普通に考えられる。

 ……だからあのバロッグも失った尊厳は別として割と素直に居場所を教えたのかもしれない。


「まあ情報量が少なくても相手を見つけたらどいつが魔物かはすぐに分かると思うわよ」


「……あっ、そうか。この森には魔物がいないからナラタ村は普段平和だって話だった。つまり盗賊の溜まり場に魔物がいたとしたらそいつが黒幕確定なのか!」


「そゆこと」


 人間の集団の中に大きな熊やキリンがいたら一目で分かるように、魔物だってその例外ではない。

 異物というのはどうしたって違和感が拭えないものだ。人間と手を組んだ。逆にそれがヤツの居所をハッキリさせてしまう要因になる。


「バロッグから聞いた話だと万が一襲撃が失敗に終わって誰も帰ってこなかったら、その翌日に二回目の襲撃をする予定になってるらしいわ。けど一回目で確実に襲撃を成功させるつもりだったんでしょうね。そのためにバロッグというあいつらにとっての大きな戦力を投入したのに実際は失敗した。今頃は二回目の襲撃のために入念な準備に追われている頃だと思う。で、私達はそこを狙って奇襲をかける」


「ああ、一発目は派手に頼んだぞ。一応殺さない程度にな」


「分かってるわよ」


「ねえ〜まだ着かないの〜……草の中かき分けて歩くの疲れるよ〜っ」


「黙らっしゃい。奇襲仕掛けるのにまともな道使える訳ねえでしょうが」


 後ろでうぅ〜と言いながら歩くリゼを見てやっぱり村に残してきた方が良かったんじゃないかと思い始める幸輝。

 村長の家を出る前は村で採れた野菜や肉を満足そうに頬張っていたのにこれだ。しかしここまで来たなら精々支援役として頑張ってほしいものである。


 しばらくすると。


「静かに。そろそろよ」


(? 話し声とかは何も聞こえないけど……)


 セレナが一旦制止して幸輝達が止まるも、周囲からは盗賊達の話し声などは一切聞こえない。幸輝の身長に近いくらいの草がそこら一帯に生えているからろくに見えもしないのが現状だ。

 ただもう近くだから警戒しておけという事か。一応中腰になって息を潜める。


「風が何人かの輪郭を感じ取ったわ」


「風?」


「ええ、前にも言ったでしょ。私は微量の魔力で風を好きに操れるって。それを使って常に周囲の動きを探ってたんだけど、前の方……大体三〇メートルくらい先で人の動きを感知したの」


「めちゃくちゃ便利だな……」


 自然な風を装いながら空間を把握できるなんて普通に人間業じゃない。

 これで上級冒険者なら、その上の階級にいる者達はどうなってしまうんだろう。


 セレナに従いつつゆっくり後ろから付いていく。

 風で盗賊側の位置を把握しているからセレナに付いていけばとりあえず安全な場所に出られるのは確定だ。あとはこの長い雑草を軽くかき分けて歩くのみ。


 慎重に進んでいたからか三〇メートルを進むのに三分くらいかかった。

 そして。


「(あった。盗賊達の拠点よ)」


「(あれが……)」


 見つけた。

 森の奥の方。ナラタ村の人達でも中々行かない森の中に、盗賊の拠点はあった。

 盗賊の人数は……見える限りで一〇人ぐらいか。


「(魔物は……やっぱり見当たらないな)」


「(多分どこかの室内で作戦会議でもしてるんでしょ。そこにはリーダーのザオロもいる。外にいるヤツらはいつでも出発できるように待機中ってとこかしら)」


 確かに見てみればどの盗賊も手に剣や槍、弓などの武器を持っている。

 いつでも獲物を殺すという意思を持ちながら。放っておけばあの殺意が何の罪もないナラタ村の人達に向けられる。


「(どうすんだ?)」


「(んなもん決まってるでしょ。最初に言ったはずよ、奇襲を仕掛けるって)」


「(それは分かってるけど、どのタイミングでだよ。ザオロ達の居場所が分からねえと狙えないんじゃないのか?)」


「(逆よ逆)」


「?」


 隣を見ると、いつの間にか好戦的な笑みを浮かべているセレナがいた。


「(居場所が分からないなら分かるようにすればいいのよ。例えばパニックを起こして外におびき寄せるとかね)」


「(……いや、あの、セレナさん? 確かに一発目は派手に頼むとは言いましたが、いったい何をするおつもりで……?)」


「(まずは外にいる盗賊達を建物まとめて吹っ飛ばす。大丈夫、手加減はするわ)」


「(えっ、ちょ、待っ)」


「(魔物はこっちで見つける予定だけど、ザオロの方はアンタ達に任せるわよ。見た目ならリーダーだし他の下っ端とは全然違う服装をしてるヤツを目印にしなさい)」


「(いやだからまずこっちの話を)」


「そんじゃ行くわよお!」


 幸輝の制止は間に合わなかった。

 セレナが勢いよく草むらから飛び出し、両手を広げるように上げる。それに反応するかのように、盗賊達の拠点の頭上辺りには人工的に作られたであろう不自然な流れの風の塊が輪っかのような形に出来上がってきた。


 幸輝が危険を察知してリゼの肩を抱き抱えると同時に。

 セレナが広げていた両手をクロスさせるように振り下ろす。


「せえーっの!!」


 そして。

 体感した事もないような暴風が盗賊の拠点へと降り掛かる。

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