ノルトマルク連邦の歴史書において天才参謀と記されるクラウス・フォン・ライフェンベルク。普段は沈黙を保ちながら、ただの一言でその場の趨勢を決定づける思慮深さの持ち主……などと書かれているが、実際の彼はどのような人物で、どのようにして歴史に名を刻んだのか本人の視点から描いていくのが本作品である。
結論から言うと、我慢強いうえに怒られるのが嫌なので口数が少なかったというだけのことである。つまり勘違いで周りから評価されていくパターンのやつね……と思いきや、微妙にそういうのとも違っていて、このクラウスという男、とにかく調整が上手い。会議の中で派閥間の意地やメンツがぶつかり合い、角が立ちそうになると、上手いこと問題を切り分けて丸く収めてしまう。主人公は軍人で舞台は軍隊なれど、物語の中心となるのは戦場そのものではなく、それ以前と以後。如何に兵を訓練し、如何に戦争の大義名分を立て、如何に穏便に戦後処理を行うのか。普通の戦争ものとは少し違った角度から軍隊というものを描いているのが本作の特異性で、書類や面倒な上官相手に汗を流すクラウスの姿は、ある種のお仕事ものとしてとても楽しめる。
しかし、彼の職業はサラリーマンや外交官などではなく、あくまで軍人。時には兵に命令を下すこともあれば、自ら火線の前に立たねばならぬこともある。そしてそのような場では彼の調整能力は役に立たない。では彼はどのようにして現実の戦場に対処していくのか?
有能であることには間違いないが、「天才参謀」という評価には決して見合うほどじゃないクラウスが、なぜ歴史に名を残してしまったのか。気になった方はその目で歴史の生き証人となってほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
29話時点では主人公クラウス大尉がいわゆる軍師無双をする訳では全くない。
19世紀レベルの近代文明の中、彼がただただ現場の軍人達に怒鳴られたくない一心で捻り出していく提案が、やがて彼の所属する連邦という古き体制へと少しずつ、確実に変革をもたらしていく物語……なのかなと現段階では感じる。
最前線に立つ将兵ではない士官達の政治的闘争の見せ方が良い意味でドライであり、戦争とはたった一枚の紙で多くの兵士を死に至らしめ、逆に生かすのだという皮肉と現実が緻密に、濃厚に表現されている良作。
とにかく細部に至るまで描かれるリアリティと情景描写、主人公や相棒の少佐、敵国の少佐らの心象描写が丁寧で小説世界に没入させてくれる。
これからも連載楽しみにしております。
戦争や政治の会議劇を軸にしながら、主人公の“誤解されて評価されていく構造”を丁寧に描いた作品です。
クラウスの内面は極めて慎重で平凡寄りなのに、周囲が勝手に意味を読み取り、天才参謀として形作っていく過程が非常に面白いです。
軍事国家としての連邦の仕組みや、鉄道・補給・地図といった現実的な要素の積み重ねが世界観に説得力を与えています。
会議の緊張感と、本人の内心の温度差が大きく、そのギャップが独特のユーモアとリアリティを生んでいます。
「誤解が本人より先に出世する」という構造が今後どう広がるのか、非常に先が気になる導入でした。