妖怪戦

かなた

1

 ある初夏の帰り道、俺は1人家に帰っていた。いつもはもう家に居るはずの時間だが今日は委員会の仕事が長引いたため、いつもより遅い下校になってしまった。長い下り坂から見える水平線に、太陽が少しずつ近づいている。海と空と町が広がるこの景色のすべてがオレンジ色に染め上げられ、いかにも綺麗な夕方と言えるこの光景を見つめながら1人家に帰っていた。綺麗だな~と思いながら歩いていると、突然。


「ニャー」


 と猫の鳴き声が聞こえた。ふと横を見ると民家の塀の上に片耳が小さい太った黒猫が香箱座りで俺を見つめていた。


「ただいまクロ、今日は太っちょなんだな」


 周りに人がいないことを確認した後、小さな声でクロに挨拶する。この猫が飼い猫なのか知らないし、クロという名前なのかも知らないが、まぁだいたいの人はクロと安直な名で呼ぶだろうからそう呼んでいる。


 クロは時々太っていたり、少し小さくなったり、変な模様が出来たと思ったら次の日には消えていたりと、会うときによって姿を変えるときがある。これがクロにとって普通なのかは分からないが、今日は太ったクロがお出ましになったようだ。クロと出会ったのは、だいたい半年くらい前でそこから時々登下校時に会ったり、ごくたまに俺の家にまで来ることもあった。初めは、クロが何で俺に会いに来ていたのか不思議に思ていたが、今ではクロが会いに来るのは、俺をある場所へ連れて行くためだと分かった。


 クロが面倒くさそうに立ち上がり伸びと欠伸を済ませ、塀からポテッと飛び降り、ある場所へと歩き始めた。海を見ると太陽がもう水平線に沈み始めようとしていた。


「クロ、今日はどこに行くんだ?日が落ちてるから急いでくれよ」


 俺がそう言うとクロはこちらをギロリと振り返り、ニャーと鳴いた。一瞬ため息をついたように見えたのは気のせいだろうか。と思った直後クロは、小走りで駆け始めた。クロの後を追いかける途中、家と家の間や大きいクモの巣が張ってある薄気味悪い隙間を通ったりした。わざとなのか近道をしてくれているのかよく分からないが、猫はよくこんな道を知ってるなと思いながら体をねじりなんとか狭い道を進んでゆく。いつもなら俺のすぐそばを歩いてくれるクロが今日はどんどんと先へ進んでゆく。まぁ前も何回か太っちょだったりおデブとか言った時は、こうして置いていかれることがあった。もう帰ってしまおうかなと思った時も何回かあったが、そうやって怒りながらも道案内をしてくれるクロがかわいいのだからしょうがない。少しして狭い道から開けた場所に出た。周りを見渡すと遠くにある郵便ポストの上にクロが座っていた。


「ニャーー!」


 早くしろと言わんばかりにクロが鳴き叫ぶ。あんな太ってるのになんであんなに速いんだと思いつつ、俺は東の空が微かに暗くなり始めようとしているのを見ながら急いで郵便ポストへと走っていった。その後も3分くらいクロを追いかけ続けてようやくクロの目的地にたどり着いた。そこは、水原公園という小さな公園で、錆のある古そうな滑り台とブランコとあとは小さな休憩所と手洗い場くらいしかない。昔何回か友達と来たことがあるがあの時と比べるとより一層小さくなっているような気がした。


「ニャー」


 声がする方を見るとクロが滑り台の上にいた。俺が見つけるとズーンと太った体で滑り台を滑った後、公園の奥へと歩いていった。クロについて行くと、錆びた滑り台よりも古くからありそうな石造りの小さな祠があった。半年前からクロが俺を連れて行く所とは、この町にある祠だったり神社だったりの神聖?な場所だ。


「今日はここか?」


「ニャー」


 クロと一緒に祠に近づく。クロが祠の真ん前に座り俺がクロのすぐ後ろに腰を下ろす。


「ニャーニャーニャー」


 クロがそう鳴くと、スッと後ろ足で立ち上がり少しだけ俺の体に背中をもたれかけながら前足で合掌を始めた。普段は俺に背中をもたれかけたりはしないが今日みたいに太ってる日は、必ずもたれかかってくる。そんな可愛らしいクロの温かさを感じながら、俺も合掌を始めた………………


 

 正直おかしいことが色々ある。クロの体がよく変わるし、俺の言葉を理解してるみたいだし、祠に向かって合掌してるし、友達にクロの事を聞いてもそんな猫見たことないと言われるし、時々見たことない祠や神社に連れて行かれるし、この祠も小さい頃は無かったし、合掌している間たまに祠から声が聞こえるような気がするし、彼女が出来たこと1回もないし…………


 しかしそんな事を考え続けても特に何も解決しない。スマホで調べても——ファンタジー小説みたいですね!——と言われただけだった。しかしこんな不思議な体験にちょっとワクワクしている自分もいる。家から近いという理由で今の高校に入り部活もバイトもせず友達は将来のために勉強とかしてるのに俺は将来の夢も何も無く、貴重な青春をただボーッと過ごしている。そんな俺にとってこのおかしな出来事は、俺の高校生活という何も書けずに提出するはずだった真っ白の画用紙に、今色鮮やかな絵を描くための下書きを書き始められたというワクワク感があったからである。この例えが正しいかどうかは分からないがとりあえずそういうことだ。


 少ししてクロの背中の重みが無くなった。目を開けるとクロはもう四足歩行に戻っていた。クロと目が合うとクロは俺の手に顔を擦り付けてきた。ゴロゴロ鳴くクロの頭や体を撫でるとクロが手から離れ体を勢いよくブルブルブルと震わせた。


「今日はこれで終わりか?」


「ニャー」


 クロがそう鳴くとスッとどこかへ走り去って行った。こうして俺とクロとのお参り(おそらく)は終わる。


「は~…帰るか」


 先ほどまで浮かんでいた太陽はもう水平線に沈み、沈んだ太陽を追いかけるようにオレンジ色の光もどんどんと水平線に吸い込まれ、空がどんどんと暗くなってゆく。その景色に黄昏れていると。町の明かりがポツポツと灯り始めた。一息ついて制服についたクロの毛をパッパとはたき落とし俺は家へ急いで帰った。


 

 

 


 


 

 


   


 


 


 





 

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