よく香る物語だ
最後までよく分からん当該男性への関心がさして深まらないほど、柚子100個の香りに満ちていました
コロナ禍以降、指輪をしていない既婚者が増えたように見受けられ いまもつけている方には、なんらかの続きを生きておられる意思などを感じます
ところで
手作りジャムって、そうなりますよね
それはそれで、とても良いこと
あっという間に古くなるから、旬を感じながら、たくさん書くのだ!という爽やかな勢いと、古くなるのは自然なことだというご認識を散りばめておられる落ち着いた文体の、なんともいえぬ不安定さがやたらと心地よかったです
柚子を食む夢見心地をありがとうございました
企画参加ありがとうございます。
これは、かなり好きな短編でした。
大きな事件で引っ張るというより、会話の間、沈黙、視線を外す動き、食べ物の匂いみたいなもので、じわっと人の心の距離を描いている作品だと思いました。
特に良かったのは、説明しすぎないところです。
主人公が何を感じているのかを、全部言葉で答え合わせしない。
それなのに、怒りも、戸惑いも、少し浮かれてしまった時間も、あとから残る苦みも、ちゃんと伝わってきました。
「柚子を刻む」という行為が、ただの生活描写で終わっていないのも上手いです。
手を動かしているのに、心はずっと別の場所にある。
淡々とした作業の中に、言えないことや、飲み込んだ言葉が混ざっている感じがしました。
恋愛ものとして読むと、かなり温度は低めです。
でも、その低さがいい。
甘く盛り上げるのではなく、相手を好きになる手前の怖さや、踏み込まれた時の違和感、もう会わないと決めたはずなのに残ってしまうものが、短い枚数の中できちんと置かれていました。
文章も清潔で、余計な飾りが少ない。
だからこそ、ふと出てくる食べ物や雨や部屋の描写が強く残ります。
読み終えたあと、恋というより、恋になり損ねたものの味が残る作品でした。
甘いだけじゃない。
でも、ただ苦いだけでもない。
柚子の香りみたいに、少し遅れて胸に残る短編です。