福岡空港の喧騒を知る者として、この物語が描く「巨大な墓標」と化したターミナルの描写に、まず胸を抉られた。
本作は、異世界と繋がった福岡を舞台に、現代兵器が「魔法」ではなく「物理法則の差異」という理不尽な壁に敗北していく姿を描いた、極めて硬派なミリタリー・ファンタジーだ。
特筆すべきは、徹底して「質感」にこだわった描写である。
最新鋭のF-15Jが、異世界の空気に触れただけでビスケットのように崩れていく絶望。一方で、その汚れた空気を力技で飲み込み、黒煙を撒き散らしながら飛ぶ老兵・ファントムIIの武骨な力強さ。エンジンの金属疲労や、重油の焦げる臭いが、画面越しに伝わってくるような臨場感がある。
そして、かつて彼の地に住んでいた私にとって、日常の象徴である「西新の蜂楽饅頭」というワードが、これほどまでに切なく、そして愛おしく響くとは思わなかった。
死と隣り合わせのスクランブルの中、無線越しに交わされる「白あん十個」の約束。その軽口の裏に隠された、網膜を焼き、命を削って空路を拓く管制官・柳の壮絶な覚悟が、物語に深い情緒を与えている。
物理法則に裏切られ、材料という現実的な壁に突き当たった福岡。
「盾」を失い、チェックメイトを突きつけられた人類が、この閉塞した絶望をどう撃ち抜くのか。
玄界灘を血に染める夕焼けの描写を読み終えた時、あなたはきっと、この泥臭い人間たちの戦いを最後まで見届けたいと願うはずだ。
一ノ瀬、真壁、柳――。
空に生きる者たちの魂の咆哮を、ぜひその耳で、その目で感じてほしい。