第13話 魔族の戦略
「……そんな無茶な。街を組み替えるなんて、僕の魔力が枯渇するぞ!」
「父上、そもそもそんなことができるのですか?」
リヴェルが伝えた指示はこうだった。敵の魔物はほぼ雄牛の魔物であり一直線に進んでくることは必至。しかも魔物は魔力の強いものに引き寄せられる。
つまり自分が囮になって魔物の大群を中心地におびき寄せるため、カイルに街の構造を組み替えて、逃げられないよう建物で魔物たちを包囲するという案だった。
「二千年前の大戦でソフィアの勇者が建物の構造を魔術で変えていたぞ。カイル、お前にもできるはずだ。ソフィアの勇者の血が流れているのだろう?」
リヴェルはカイルの目を見た。
「確かに、この国の建造物は魔術を施されている。つまり、魔力で動かすことは可能なはず。僕にそのイメージが持てれば、その形にすることはできるかも……ただ……。それ!絶対!僕の魔力が枯渇するぞ!僕は使い物にならなくなるぞ!!
それでもいいんだな??いいんだな!!?」
「……」
「そこ?」
「とりあえず、俺が魔物たちを引き受けよう!」
そういうとリヴェルは街の巨大な門の方へと走っていった。
「おいゼイン!お前のお父様は飛べないのか??普通魔族って飛んでくるだろう。なんで地味に走って門までいくんだよ!」
「……知りません。父上が飛んだところは未だかつて見たことありませんから……」
そう。リヴェルは飛べない。戦いの時は部下の黒龍に乗って戦うからだ。
魔族はそもそも浮くことはできるが横に飛ぶことはできない。みな竜や魔物に乗って現れるのだ。
「衛兵たち!急いでまだ街に残っている人たちを救助して城に撤退してくれ!今からこの街自体を、魔物を閉じ込める牢獄とする!!」
カイルのその声に、事態を飲み込んだのか、衛兵たちが素早く動いた。
ソフィアの城門が、重々しい音を立てて開け放たれた。
結界の霧が晴れたその瞬間、リヴェルは一人、門の真ん中に立ちはだかった。
「こっちだ魔物ども」
リヴェルが黄金の瞳を輝かせ、膨大な魔力を解放する。その瞬間、城外を埋め尽くしていた魔軍が、一斉に彼の方を向いた。
六将軍ミレの配下、数千頭の雄牛の魔物。魔力の強い存在へ盲目的に引き寄せられる習性を持つ、生きた破壊兵器の群れだ。
「モォォォォォォオオ!!」
大地を揺るがす轟音と共に、雄牛の群れが一直線にリヴェルへとなだれ込んできた。
リヴェルは激しい地響きの中、余裕の笑みを浮かべながら踵を返す。体は軽く宙に浮き、素早くまるで瞬間移動をしているかのように空間を飛び、雄牛たちを市街地のメインストリートへと誘導した。
(……そうだ。もっと奥へ来い。全てまとめて屠ってやろう)
顔には戦いを楽しむものの笑みが浮かぶ。
市街地の奥深く、最も高い占術塔の頂上。カイルは冷や汗を流しながら、眼下を疾走するリヴェルと、それを追う黒い濁流を凝視していた。
「……ハァ、ハァ……。なんて馬鹿げた魔力だ。……あんなものを囮にするなんて、僕ならあの魔力を見ただけで逃げたくなるね」
カイルは杖を握り締め、全神経をソフィアの街の「地脈」へと集中させる。リヴェルの策を実行するためには、カイルの魔力が枯渇する寸前まで必要だった。
リヴェルが中心地の広場に到達した瞬間、彼は占術塔のカイルを見上げ、鋭い視線を送った。
(いまだ! カイル!!)
「よ、よっしゃぁぁぁ!! 天才魔術師の底力、見てみやがれぇぇ!!」
カイルが咆哮し、杖を地面に突き立てる。
彼の魔力がソフィアの建築術式に注入された瞬間、街の形が急激に変貌を始めた。
石畳が波打ち、左右の建物が「物理的に」せり上がり、絡み合い、雄牛たちの退路を断つ。
「モォッ!? ……ブモォォ!!」
リヴェルはニヤリとした。
(そうだこれだ。二千年前にもお前の血族の勇者がつかっていたぞ。)
雄牛たちは、突如現れた叡智の迷宮に閉じ込められ、混乱に陥った。
カイルはさらに魔力を絞り出し、重力を偏向させる。街の中央が巨大な「蟻地獄」のようにすり鉢状に凹み、雄牛たちは互いに押し潰されながら、中心へと引き摺り込まれていった。
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