第二話:銀貨三枚の挑戦
朝日が王都の街に差し込む。アルベルト・フォン・クラウゼルは、昨日設置したばかりの小さな店舗の前に立っていた。
棚にはパン、乾物、簡単な調味料が並んでいる。元手は銀貨三枚――小さくても、自分で稼ぐ第一歩だ。
「……よし、まずは値段設定だな」
前世の営業マンとしての勘が、自然と働く。商品の原価、競合の値段、客層の需要。すべて計算して、適正価格を決める。
だが、問題は客だ。王都は貴族の街。庶民もいれば商人もいるが、貴族の坊ちゃんが自ら店を開くなど前例がない。
開店早々、近所の貴族の息子たちが現れた。
「おい、クラウゼル。店開いたって聞いたぞ。貴族の癖に笑わせるな」
「……まあ、見てろ」
アルベルトは微笑みながら、準備したパンを一つ取り、試食として差し出す。
「まずは味で勝負だ」
最初の客は、商人の老婆だった。
「……このパン、美味しいわね」
老婆は銀貨一枚を差し出す。アルベルトは丁寧にお釣りを渡し、控えめに頭を下げた。
(……よし、最初の一歩)
しかし、順調な日々は続かない。
街には同業の商人がいる。彼らは見下した目でアルベルトを見て、値下げ競争を仕掛けてきた。
「貴族の坊ちゃんが商売? なら我々も特別価格で対抗だ!」
通常なら、慌てて値段を下げるところだ。だがアルベルトは冷静だった。
「価格を下げるのではなく、価値を上げる」
彼は商品の包装を改良し、見た目の高級感を出した。さらに、販売時の接客も徹底的に工夫する。
「いらっしゃいませ。こちらは今日焼きたてのパンです」
丁寧な接客と実際に美味しい商品で、徐々に客が増え始める。街の噂で、アルベルトの小さな店は「味もサービスも一級」と評判になった。
しかし、貴族仲間の反発は続く。
「甘い顔して、店を開くとは……家の恥だ!」
執事が怯えながら言う。だがアルベルトは笑った。
「甘えは捨てた。貴族だから守られると思ったら大間違いだ」
その目には迷いがない。
数週間後、銀貨三枚から始めた小商いは、二十銀貨の利益を生むまでになった。
(……なるほど、商売って面白い)
だが、喜びの一方で、街の商人たちの視線は鋭くなる。
「貴族の坊ちゃんが利益を出す? 許せるか!」
その時、アルベルトは思った。
(よし、ここからが本当の戦いだ)
貴族の特権も、親の庇護もない――自分の力だけで、商売で頂点に立つ。
それが、転生して手に入れた新しい人生の目標だった。
そして、この小さな店舗から、王都一の商会を築く長い戦いが、今、静かに始まったのだった。
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