転生没落貴族は甘えないで商売をする!
書庫の亡霊
プロローグ:破産した貴族の笑顔
王都の大通りは、かつてないほどの人だかりに包まれていた。
その中心に立つのは、一人の若い男。
年の頃は二十そこそこ。上質だが使い古されたコートを羽織り、堂々と胸を張っている。
彼の名は――アルベルト・フォン・クラウゼル。
つい三日前、「名門貴族クラウゼル家の当主」であり、
そして今は――
「本日をもって、クラウゼル家は全財産を手放しました!」
群衆がざわめく。
貴族が、破産を、自ら宣言するなど前代未聞だ。
「領地も、屋敷も、使用人も、すべてです!」
「正気か!?」「終わったな……」「没落だ……」
好き勝手に言われても、アルベルトは笑っていた。
――いや、むしろ楽しんでいるようにすら見える。
「ですが!」
彼は手を叩いた。
乾いた音が、妙に響く。
「借金はゼロ! しがらみもゼロ! つまり――」
一拍、間を置く。
「ここからが、商売の始まりです」
静まり返る空気。
次の瞬間――誰かが吹き出した。
「ははっ……貴族が商売?」「落ちぶれたなぁ」「甘えすぎだろ」
だがアルベルトは、そんな声を気にも留めない。
「貴族だからって、守られると思ったら大間違いだ」
その瞳は、異様なほど冷静だった。
「俺はもう“貴族”じゃない。ただの一人の商人だ」
そう言って、彼は懐から一枚の紙を取り出す。
そこに書かれていたのは――
『開業資金:銀貨三枚』
「さて、と」
彼は肩をすくめた。
「ここから王都一の商会を作る。文句あるやつは、金で黙らせてやるよ」
その宣言に、再び笑いが起きる。
――だがその中に、一人だけ。
笑わなかった者がいた。
(こいつ……本気だ)
その直感は、数年後。
王国中を巻き込む「商売戦争」の始まりだったと知ることになる。
そしてその中心にいるのが――
すべてを捨てた元貴族。
アルベルト・フォン・クラウゼルである。
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