過去と家族その4

 東郷から指示された通り、美優を教官とした基礎訓練が始まって一週間が過ぎた。その日、昂良は美優から呼び出された。


「昂良、そろそろ武器を選ぼう。一緒に来てくれない?」


「何でですか」


「あんた、他の連中と違って特殊な能力を持ってないでしょ。素手で猛獣を倒す気がないなら、武器を駆使して戦うしかない。剣士見習いの私だって武器に頼ってるんだし、ほら、行くわよ」


 美優の後について地下へと降りると、訓練場の一角にある整備室に辿り着いた。そこでは、武器管理を担当する海野烈うみの れつが銃の手入れをしていた。油の匂いと、微かな金属の擦れる音が響く無機質な空間だ。


「どうしたんだ?」


烈が布で銃身を拭きながら、こちらに顔を向ける。


「彼(昂良)の武器を選んでほしいんだけど」


烈は昂良を頭から爪先まで観察するように見つめた。


「剣術か、銃術か……。そういえば挨拶がまだだったな。海野だ。よろしく頼む」


「どうも、昂良です。じゃあ……銃で戦わせてください」


 剣を持つのは、自分の手に直接肉を斬る感触や血がつくイメージが強すぎた。一方で、銃はどこか現実から切り離された道具のように感じられたのだ。


「わかった。それで、どうする? リボルバーか、それともオートマチックか」


 烈が壁のコンソールでボタンを押すと、重々しい音を立てて壁がゆっくりとスライドした。そこには、映画でしか見たことのない無数の銃器が整然と並んでいた。ハンドガン、アサルトライフル、ショットガンなど、種類は様々だ。すべての銃器が冷たい金属の光を放ち、ここが昂良の日常とはかけ離れた世界であることを象徴していた。


「すごい数の武器ですね……。どこからか貰ったんですか? それとも買ったとか」


「元々は銃の密売ルートから押収した非合法の代物だ。政府から正式な組織として認められていない以上、正規のルートで銃を購入することはできなかったからな」


烈はそこで言葉を区切り、少しだけ目を伏せた。


「だが、来週から正式承認されるから、軍の規格品が買えるようになる。かなり仲間が抜けたからな……戦力増強という点では、いいことだ」


 しかし、烈の口元に浮かぶ薄い苦笑いは、決して手放しで喜べる状況ではないことを物語っていた。抜けた仲間、あるいは消えた仲間。昂良は、この組織が経験してきた重い犠牲の歴史の端を垣間見た気がした。


「それじゃ、どれがいい?」


「ハンドガンの一番扱いやすいやつでお願いします」


 素人でも扱いやすく、持ち運びや隠蔽がしやすいという実用性を重視した選択だった。


「よし。それならグロック17だな。装弾数は17発、まずは体で覚えることだ。射撃場は出て右にある。これを持っていけ」


 烈から手渡された黒いグロック17は、予想よりもずっと重く、表面の冷たさが手のひらにずっしりと伝わってきた。昂良は、海野から一緒に渡された黒いイヤホン状の小さな装置を耳に装着し、射撃場へと向かった。


 そこには誰もいなかったが、海外ドラマで斗真とよく見ていた射撃場そのものの光景が広がっていた。一度でいいから入ってみたいと思っていた場所だ。


レーンはすべて空いていたため、手っ取り早く一番近い中央のブースに立った。


「それは、軍用のスマート・イヤープロテクターよ」


背後から不意に声がして振り返ると、白衣を着た医療担当の薬師寺伊織が立っていた。


「一般的な耳栓と違って、会話レベルの周波数は通し、銃声みたいな鼓膜を破る衝撃波だけを瞬時に遮断してくれる優れものよ。連携を取るのにいちいち耳栓を外す必要がないの」


 まるでスパイ映画に出てくるような高度な装置に、昂良は感心して目を丸くした。

さっそくターゲットに向けてグロック17を構える。早鐘のように打つ心臓の鼓動をどうにか押さえつけ、息を吐きながらトリガーを絞った。


ドンッ!


 鼓膜を叩くような爆音は装置によって「くぐもった破裂音」程度に軽減されたが、物理的な衝撃は誤魔化せない。手首を強烈に跳ね上げるような鋭い反動が腕全体に走り、昂良は思わず姿勢を崩しかけた。


「すごい……」


 昂良は思わず呟いた。静寂の中で撃つ、本物の銃の重み。初めて実弾を撃った興奮と、人の命を容易く奪える恐ろしい威力が自分の手の中にあることへの驚きが入り混じっていた。


 何度か射撃を繰り返すうちに、だんだんと反動の逃がし方にも慣れ、呼吸も落ち着いて狙いが定まってきた。まるで、この射撃場が自分だけの秘密基地になったような高揚感があった。

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