日本人は桜が好き。
花を咲かせる木々は多いですが、膨らむ蕾を見て春を待ち通しく思い、開いた花を数えて高らかに開花宣言する、そんな木は桜だけではないでしょうか。
そんな桜の、一本の老木が、その命を終えようとしています。
それを見守り、最期の言葉を聞くのは、花の王子。
綴られる彼等の会話と心情は、優しくて柔らかく、そのものが春の空気のようです。
桜を見上げる人々と同様に、人々を見下ろす桜にもまた、たくさんの思い出があって、それらを懐かしく愛おしく感じるのかもしれない。
そんな風に思える、春の宵にぴったりな短編でした。
お勧め致します。
みなさんはこの春、桜を見ましたか?
桜の咲いては散る姿は、命の誕生と死を繰り返しているようでもあります。
けれど、木そのものはそのたびに新しく生まれ変わるのではなく、ゆっくりと、しかし確実に老い、死へと向かっていきます。
本作では、“春の花の王子”が五百年の時を生きた桜の老木の、その最後の開花を見届け、最後の対面を果たします。
老木から桜の精が実体を得て現れ、自らの五百年の生を振り返る。
春の宵に行われるそのひとときは、幻想的で、悲しく、愛に満ちていて、なんとも切ないものでした。
けれど本当に美しいのは、花の咲く様だけではありません。
桜の精の魂そのものが、とても気高く、美しかった。
だからこそ王子は、その魂に惹かれ、焦がれ、想いを寄せたのでしょう。
多くの人は、桜が咲き誇ったその瞬間を愛でます。
けれど桜の方では長い命のあいだずっと、愚かな過ちを繰り返す人間をそれでも愛し続けてくれていたのかもしれません。
今の季節に読んで頂きたい作品です。
ぜひ、ご一読ください。
ある春の宵、美しく老いた桜の前で盃を交わす紅と蒼。
その桜のいのちは、今夜尽きようとしていた。
花の王の子であるふたりは、しきたりにしたがって桜の精に尋ねる。
生まれ変わったら何の花になりたいか、と。
長く人の間にあり人を慈しみ人に愛された桜。
彼女は何と答えて散っていったのでしょうか。
◇
作者、深山さまは丁寧な心情描写に定評ある作家さんです。
その淡色の恋愛小説はもとから素晴らしかったのですが、最近の深山さまはそこに陰影のコントラストを加えてなおのこと深み、というより凄みを増しているような気さえします。
どこまで行ってしまうんでしょう?
この作品は転換点になる予感がします。
ぜひぜひご覧になってください。
おすすめです!
美しくて、幻想的で、そして儚い。
桜の花。毎年の春になると、人の目を楽しませてくれる、とっても尊いもの。
本作はそんな「桜の花」を愛でる二人の王子が登場します。
紅と蒼。二人は「春の花の王子」とされ、人ではない神格的・精霊的な存在だということが伝わってきます。
二人はそっと、桜の老木を見つめ、桜の精である清子と対面する。
老木となりながらも美しい花を咲きほこらせ、同時に儚く散ってゆく。
桜の花は美しいけれど、散るのもとても速い。天候に恵まれなければ誰かに鑑賞されることなく満開の時を終えてしまうことも。
そんな「刹那の美」を持った桜の「最期」を神のような二人が看取るという、静かだけれど、とても温かで心に迫るストーリーでした。
桜の花は毎年の春になると人の心と目に潤いを与えてくれる。一本一本がとても愛おしくて、大切したい存在なのだな、ということを改めて感じさせられました。