11話 バーバーリアン・ウォーム・ブラッド

視界が開け、陽光が薄れ射す。


鎧は一斉に一同を見つめ、臨戦体制に移行する。


「ようこそ、少し遅かったですね♡」


一行は声の主に顔を向ける。


そこに立つのは、なんとも言えぬ服装の巨漢と、フードを被り仮面を付けた漢。


「ん? ヴィア様に聞いていたより人数が多いな」


「そんなこと些細な問題ですよ、バリー♡」


「まあそうか。些細な事だな」


先頭を行く皇子は小屋から出る。


「無理な事と承知で問うが、降伏する気はあるか? 命の保証はしよう」


「知れた事を」


「もちろんNO、ですわよ♡」


一行は、リオラを小屋に残し外へ出て、臨戦体制に入る。


「そうか。なら、切らせてもらう」


その言葉を聞いた魔族の二人は、抑えていたスペルを解放する。


「騎士を連れ出し、帝国を取り戻そうと♡」


オネエ口調の巨漢は、高笑いをした後宣誓する。


「そうはさせません。このブービエ・デ・フランダースと♡」


「バーバリアン・ウォーム・ブラッドが」


「あなた達を殲滅しましょう」


「ではよろしく♡」


 鎧の軍は一斉にゼルファード達を襲う。


「[ファイル]『消失零絶:ベリアル』」


鎧はアムネジアの[ファイル]により動きを止められ、その隙に反撃を開始する。


鎧の間を掻い潜り、魔族に向かったのは、ドレイブン・アムネジア・ゼルファードの三人。

その他の者は、鎧の相手とリオラの守護に徹する。


魔族に向かうドレイブンは、地面に貼られたシールに気づかず、踏んでしまう。

すると、皆から十メートル程離れた地点に転移する。


「貴方の相手は私ですよ♡」


「なんで俺がこっちなんだよ。運ねぇなぁ」


(ドレイブンが消えた? いや少し離れた場所に転移しただけか。彼なら問題ない、このまま)


ゼルファードがドレイブンが転移されたことに気付くが、信頼の上で前進する。


「君たちの相手は僕だよ」


バーバリアンも二人に向かい走る。


「[ファイル]『先見の明:ヘイムダル』」


ゼルファードは[ファイル]を解放し、バーバリアンの攻撃を交わして、剣で敵を貫く。


「残念だったね」


ゼルファードが貫いたのは、衣服でバーバリアンは無傷。


「そして、もう僕にその剣は使えない」


魔族の男が、ゼルファードの剣を掴む。

すると剣が根本から割れる。


「クッ」

(剣が折れた。スペルだろうが一体どんな?)


ゼルファードは動揺を隠せない。

そして[ファイル]が無意識の内に解除される。

その隙を逃さず、バーバリアンが攻撃を仕掛ける。


しかし遮るように、アムネジアが[ファイル]を展開する。


「[ファイル]『消失零絶:ベリアル』」


動きが止まったバーバリアンと、距離をとる二人。


「大丈夫か?」


アムネジアの質問に、未だ動揺しているゼルファードは答える。


「問題ない。少し驚いただけだ」


(息が上がっているし、スペルの残量も出発前から、かなりの勢いで減っている。ここは僕が)

「そうか、次は僕が行く。合わせてくれ」


「了解だ」


またもや突撃する二人。


バーバリアンは、アムネジアの[ファイル]を警戒し、森の方へ跳ぶ。


(あの止まる[ファイル]は厄介だ。一先ず、情報収取に徹しよう)


バーバリアンは、着地した先にあった小石を拾い投擲する。


凄まじい勢いで投げられた小石は、木を貫通してアムネジアを襲う。


「[ファイル]『消失零絶:ベリアル』」


小石はその場に止まり、それをアムネジアが地面へ弾く。


それからバーバリアンは、二人から距離を取りつつ、小石の投擲を続ける。


(大体把握した。恐らくあいつの能力は、静止させることではなく、あくまで一時停止。[ファイル]の効果が切れれば、[ファイル]解放前の運動を再開する)


それからバーバリアンは、小石を三つ持ち投げる。


「[ファイル]『消失零絶:ベリアル』」


アムネジアはその小石の全てを、止め、打ち落とす。


(複数同時発動が可能。それにスペルの量と[ファイル]の使用頻度からして、燃費がいい)


次にバーバリアンは、アムネジアを中心として、円を描くように動く。


(今度は、効果範囲と効果方位の確認)


今度は石だけでなく、木の枝なども投げる。


全方位から次々と飛んでくる危険物を[ファイル]によって動きを止めるアムネジア。


ゼルファードと共に、止めた石や枝を打ち落とすが、三尺ほどの木の枝が、アムネジアの喉を貫く未来をゼルファードが見る。


([ファイル]の効果時間に対して、対処が追いつかない!!)


そうアムネジアが思った時、未来で喉を貫きし枝が、再始動する。


ーバジュッー


手の肉が切れ、血が滴る。


「ゼルファード!!」


アムネジア目掛けて飛んできた枝をゼルファードがキャッチしていた。

片膝を付き、左手を押さえたゼルファード。

バーバリアンは、攻撃の手を止める。


「すまない。見えてはいたんだ、だが遅れた」


ゼルファードのスペル量とスペル出力があれば、防御やキャッチは無傷で行えた。

しかし、投擲物と障害物に加え、アムネジアとの位置が悪く、スペルによる防御が遅れ、手傷を負う事となった。


(リオラのとこまで行くのは、無理か。今やるしか)


ゼルファードに手を貸し、アムネジアがバーバーリアンに対して、歩を進めようとするが、ゼルファードが肩を掴み引き止める。


「待ってくれ、俺がやる」


ゼルファードは、掴んだ枝をスペルで強化し、バーバリアンに攻撃をする。


振り上げられた枝を避けるべく、バーバリアンは後退する。


「[ファイル]『先見の明:ヘイムダル』」


その動きを[ファイル]で見ていたゼルファードは、より速く、より深く踏み込む。

未来を見通しながら放たれる剣技は、魔族の肉体を捉える。


「ガッhぁぁ」


その枝は、バーバリアンの右肩から左脇腹にかけて振り下ろされ、血が吹き出す。


攻撃を成功したゼルファードは、手を止めることなく、連続攻撃を叩き込む。

合計十三回の攻撃は、バーバリアンの肉体だけでなく、周りの草木も、風圧や漏れ出たスペルによって、倒木し粉々に消し飛ぶ。


ーダポダボダポー 血が溢れる。


「ボハァ」


バーバリアンは吐血し、全身の筋繊維や骨が挫傷する。


「なぜ最初から本気を出さなかった?」


這いつくばり、声が途切れ途切れになりながらも聞く。


そんな魔族の男に、青年は息を整え、落ち着いて答える。


「手は抜いていなかった。私達の[ファイル]は燃費が悪い。だから使いすぎると、意思と関係なく解除される」


「なるほど。僕と戦っていた貴方は、疲労困憊だったと言う訳か」


「いや、最後は全力だ。アムネジアが、休息に必要な時間を稼いでくれたからな」


四つ這いになり、立ち上がろうとするバーバリアンに、枝を突き付けるゼルファード。


「答えは分かりきっているが、一応聞くぞ。降伏するか?」


バーバリアンは、血反吐混じりに嘲り嗤う。


「勿論、NOだよ」


そう答えた瞬間、バーバリアンは押さえていたスペルと[ファイル]を開放する。


「[ファイル]『断:cut of anything?』」


辺り一体に激しい揺れが起こる。


「しまった、逃げろアムネジア!!」


ゼルファードは『先見の明:ヘイムダル』により、これから起こることを見て、後ろにいるアムネジアに叫んだ。


しかし、先ほどの猛攻によりゼルファードの体力が減り、バーバリアンの未来の攻撃を避けられない事を悟る。


(目が元に戻っている!? それに滝のような汗)


ゼルファードの叫びを聞いて尚、アムネジアは彼を救うべく、走り出す。



 アムネジアがゼルファードの元に到達するよりも速く、バーバリアンの[ファイル]が開放され、一体に激しい轟音は響く。


大地が裂け、深く地面が割れる。

 

バーバリアンはその地割れに吸い込まれるように落ちていく。


アムネジアとゼルファードは側面の壁を掴むが、ゼルファードは手から力が抜け落ちてしまう。


ゼルファードが落ちた事をいち早く察知し、アムネジアが壁を蹴って加速し、ゼルファードを抱え、反対側の壁に掴まる。


「大丈夫か? ゼルファード」


「あぁ、すまない。俺のせいでこんな事に」


「気にしないでくれ。それより今はここからの脱出を」


「そうだな」


悲観的になったゼルファードは、アムネジアの言葉で持ち直す。


「僕が上まで運ぶから、しっかり掴まってくれ」


アムネジアはそう言って、ゼルファードを自身の肩に、掴まれる高さまで引き上げる。


「[ファイル]『消失零絶:ベリアル』」


アムネジアが[ファイル]を開放し、落石が動きを止める。

その落石を足場にして蹴り上がり、連続で[ファイル]を使用し、落石を飛び移る。


それは突然起こる。

壁同士が再び轟音をたて、近づき始める。


「マズいぞアムネジア。閉じ始めている」


より早く上に上がるアムネジア。


しかし上に行くほど少なくなる落石。


アムネジアは[ファイルの対象]を、落石より小さく動きの読み難い、落ち葉や枝に変更する。


(早く、速く、疾く。間に合ってくれ)


息は乱れながらの駆け上がるアムネジアより速く、閉じる地割れ、そこで決死の決断を下す。


アムネジアはゼルファードを投げ上げて、先に地上へ送る。


そして身軽になった自身は、今まででよりも速く登る。



 「アムネジア! 起きてくれ、アムネジア!」


(誰かが大声で僕を起こしてる。助かったのか?)


意識や思考がはっきりしないアムネジアは、ゆっくりと目を開ける。


「アムネジア!!」


「よかったのよぉぉ」


右には今にも泣き出しそうなリオラ、左にはアムネジアの手を掴んでいるゼルファード。


「助かったのか?」


「あぁ、助かったよ。君のお陰だ。本当にありがとう」


一条の涙を流し、優しく微笑む皇子。


その周りには、バール達が立っている。


「そっちも全員無事なのか?」


「もちろんだぜ。まー俺たちの相手は雑魚だったからな!」


バール含め大笑いする漢達。


「しかし、皇子がお前さんをおぶって、来た時は驚いたなぁ。なんせ、片足なかったからよ」


漢の一人がアムネジアに言った。


「そうだったのか?」


アムネジアはゼルファードに問う。


少し間が空き、気まずそうにゼルファードは答える。


「君は俺を投げ上げた後、より一層速く登って来たんだが、一歩遅く。左膝から下が巻き込まれて...」


「そうだったのか。まあ何より無事で良かった。脚は君が治してくれたんだろ! ありがとう」


俯いて今にも泣きそうだったリオラに、感謝の意を伝える。


「次からは気をつけなさいよ」


リオラはアムネジアの肩を軽く殴る。


「約束するよ」


アムネジアは立ち上がり、治った脚の調子を確認する。


「そう言えば、その剣はどうなったんだ?」


バーバーリアンとの戦いで折られた剣は、今ゼルファードが帯剣している。


「ん? あぁ、これはリオラに治してもらった」


ゼルファードが答えるとアムネジアは、不思議そうな声色で聞く。


「リオラ、君の[ファイル]は物質も治せるのか?」


「無理よ。私の[ファイル]は生物限定だもの」


リオラは頬を膨らませ、ムスッとする。


「じゃあなんで?」


「それはこの剣が生きてるからだ」


ゼルファードが答える。


「この剣は20年前に帝国を襲った、邪天馬ペガサスの羽と骨で出来てる。神獣である邪天馬で作られた剣は、半分生きてて半分死んでる。だから生物でもあるし、無生物でもある」


「なるほど。そんな剣まであるのか」


「俺はまだまだ未熟者だから、剣に眠っている[ファイル]を使ったりは出来ないがな」



 森からは草木を掻き分け近づく音が微かにする。


一同は会話の音でその音に気づかないが、ゼルファードだけはその者のスペルを感知し、そちらへ歩む。


「帰って来たぞぉ」


アムネジアが振り向くと、無傷のドレイブンが森から出てくる。


「無事で何よりだ」


ゼルファードとドレイブンは握手を交わす。

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四極の刻 第一部 闘-王権帝都奪還篇- @shatii

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