第5話

 「ちなみに、他にも王宮が嫌いな理由があるのか? 」


 「まだまだありますねえ。」


 「それら全て教えてもらっても? 」


 「もちろん。」


 私はつらつらと王宮に対する恨みつらみを聞かせた。どれほど王宮が嫌いか分かってくれれば、結婚しろなんて言われないだろう。


 「そうか、そうか。」


 陛下は急にキラキラのどす黒い笑みを浮かべた。

 これまで見たどの笑顔よりも活き活きとしたその笑顔に、思わず胸がときめいた。


 ああ、やばい。

 これが、恋!?


 「王宮のものが今までずっと申し訳なかった。関わった人間には厳罰を下し、今後はこのようなことが絶対に無いようにする。」


 陛下はずっと話し続けているが、何も頭に入ってこない。そして、胸のときめきは一向に収まらない。


 陛下の周りが輝いて見える。

 一挙手一投足を見逃したくなくなる。


 話してる時に髪をすっと耳に掛けるあのしぐさ。

 まじやばない!?

 忙しすぎて切る暇がなくて伸びっぱなしの髪の毛を後ろで纏めてるのも、めっちゃいい。これまではダサいだなんだ揶揄ってきたけど、今思えばすごく、いい。


 「おい、聖女。聞いてるのか! 」


 怒られた。


 「本当に申し訳なかった。いただいた指摘は全て改善する。だから結婚してくれないか。」


 「いやです。」


 あ、間違えた。


 「いいですよ。」


 「え。」


 なんだその目は。いいっていってやったじゃないか。


 「すみません、間違えたんです。プロポーズされたら断るのが反射になってまして。」


 「なんだそれ。」


 「いいですよ、結婚。ちゃちゃっとしちゃいましょう。」


 陛下は金魚のように口をはくはくさせた。


 「本当だな。本当にいいんだな。言質はとったぞ。」


 「いいですよ。」


 陛下はドアを開けて叫んだ。


 「おい侍従! 聖女から結婚の言質を取った。いますぐ神官を呼んでこい。」


 侍従が陛下の暴走を諌める。


 「陛下、さすがに無理があります。王とあろう方が、そんな粗末な式でいいはずありません。」


 「でも、こいつの気分が変わるかもしれない。明日にはやっぱりやめると言い出しかねん。」


 失礼な。

 人のことをなんだと思ってるのだ。


 侍従は深く頷いた。


 「承知しております。しかし陛下、ウエディングドレスは陛下が九十五回目のプロポーズで聖女さまに贈られたものが残っておりますね。」


 「ああ。」


 おいちょっと待て。

 私が送り返したアレ、まだ取ってあったのか。


 「そして、結婚指輪は百回目に陛下が贈って聖女さまも受け取られたはずです。」


 あれ結婚指輪だったのか。

 どうりで陛下が結婚を断られて落ち込むわけだ。


 「ですから、二週間後というのはどうでしょう。それぐらいでしたら陛下も聖女さまの気を留め続けられるのでは。」


 陛下はきりりと眉を上げた。


 「よし分かった。二週間後に俺と聖女の結婚式を行う。国中に伝達しろ。」


 ああ、みんな、可哀想に。

 私は宰相の副官に胃薬を差し入れることを決意した。


 そういえば。


 「ねえ、陛下。追放の件ってどうなるんです? 」


 「ああ、あれか。」


 陛下は片眉をくいっと上げた。


 「肥料が開発されたのは本当だが、お前を追放するというのは俺との結婚を承知させるための方便だ。」


 なんだよー。

 追放か結婚か、結構本気で悩んだ私の労力を返して欲しい。



 文官たちの胃と引き換えに、結婚式は無事に挙行された。

 それと、陛下がいつ振られるかという賭けでは。陛下が振られないというほうに賭けていたごく少数の人々だけが賭けで大儲けできたらしい。


 王宮に住むための打ち合わせにて。

 「聖女どの、ありがとうございました。」と、抜け目ない侍従長からウインクされた。


 なんでお前も賭けしとんじゃい。


 まあ、そんなこんなドタバタがありまして、結婚して王宮に住んだら。食事は美味しかったし、お風呂はあったかくて、ドアは全てスムーズに開いた。

 そして陛下は安定のかっこよさだった。

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私、聖女。いま、追放される瀬戸際にいるの。 KaJyun @KaJyun373

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