第8話 シーズ村防衛戦
近々ボアの襲撃があるよ。と言われたところで、仕事をサボる訳にはいかない。
村人たちにもそれぞれの生活があるのだ。もし税が納められなくなったら、この件が解決したところで、どのみち破滅してしまう。
『農作業をする』『村を守る』「両方」やらなくっちゃあならないってのが「農民」のつらいところだな。
いつ訪れるか分からない襲撃に恐怖心を抱きながらも、村人たちが午後の作業に取り掛かろうとしたその時。
「っ! ボアだ! ボアの群れが出たぞー!」
カーン! カーン! カーン!
急ごしらえの見張り台から、村中に聞こえるほどの大声と、緊急事態を知らせる鐘の音が響き渡った。
いつでも動けるように、近くで待機していた"フェザーテイル"の3人がすぐさま駆けつけると、アルが見張り台に向かって叫んだ。
「どっちへ向かってる!? ヤツらの狙いはどこだ!?」
「柵に沿ってダニエルの畑の方へ向かってる! 数は7体だ!」
あれからも、群れを刺激しすぎない絶妙な塩梅で間引きをおこなっていたので、おそらく普通の個体はそれで全部だろう。
「その中に白いヤツは混じってるか!?」
「いや、見える範囲にはいない!」
事前の話し合いで、いくつか想定していたパターンの1つだ。
「わかった! 俺たちは事前の打ち合わせ通りに動く! あんたは引き続き見張りを頼む!」
「おうよ!」
見張りの村人とのやりとりを終えたアルは、パーティーメンバーに向き直る。
「聞いたな? ガルフは戦える村人を、必要な数だけ連れてそっちに向かってくれ」
「任せよ。そっちもぬかるでないぞ」
ガルフは老人とは思えぬ軽やかな足取りで、戦友となる村人たちを迎えに行った。ちなみに、父マッシュもそっちに行ってる。
「テレーゼは俺と一緒にボスの迎撃だ」
「了解よ! ……はぁ。このパターンが一番可能性が高かったんでしょうけど、実際にこうなると気が滅入るわね」
そうぼやくテレーゼは、心底嫌そうな顔だ。
「本当にな。胸糞悪い結果にならないように気張ろうぜ」
「ええ」
2人もスノーボアを迎え撃つべく準備を始めるのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
襲撃の前日。
「避難所が狙われる!?」
何度目かの作戦会議の場にて、村長の声が参加者の耳に響いた。
当然のように参加している、俺の耳にも響いた。
5歳児の俺が普通に参加してることに、やっと違和感を覚え始めたのか『なんでコイツここにいるの?』みたいな視線が飛んできてたりするが、ダイレクトに言ってくる者はいないので気にしない。
「あくまであり得るかもって話だが、可能性は高いと思うぞ。あいつら、というか魔物は基本的に人を好んで襲うのは知ってるな?」
「う、うむ」
「中でも高ランクの獣タイプは、腹が減ってると他に目もくれず人間に向かっていく。さらに言うと群れるやつらの場合、ボスが始めに独り占めして、食べ残しを手下どもが仲良く分け合う」
「ヒィッ」
想像したのか、何人かの村人の顔が青くなる。
「だから手下どもはボスが暴れ回っている間、他の食料を漁りに行くはずだ。もし、このパターンを引いた時は、おそらく畑に向かうであろう通常種を、戦える村人とガルフで完全に潰す。そして」
「避難所に現れる、ボスのスノーボアはあたしとアルでやるわ!」
テレーゼが大きな胸を張ってアルの言葉を引き継いだ。
「そういうことだ。この場合、避難所にいるみんなには怖い思いをさせちまうが、すまない」
そう言ってアルが頭を下げると場がざわついたが、父マッシュが慌てたようにフォローする。
「いやいや! 当初の依頼は普通のボアの討伐だったのに、Bランクのバケモノが出てきても命を張ってくれてるんだ。むしろ感謝してるくらいだ! なぁ、ルイン!」
「うぇぉあ!?」
完全に油断してた! 変な声出たじゃねーか! なんの脈絡もなくこっちに話振るなよ!
「えぇ、そのとおりです。ありがとうございます。無事に全部解決したら、ボスの肉でまた宴会でもやりましょうね」
「くくっ! 今さらキリッとしても誤魔化せてないぞ」
「あははは!」
この後、めちゃくちゃ笑われた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
そして時は戻り、現在の避難所。
ここには戦えない女性や子供、それらを守るかのように槍を持った男が数人、出入り口付近で控えている。セラ母さんとウィル兄さんも、もちろんここだ。
そんな物々しい雰囲気の中、俺は避難所として使っている大きな倉庫の中から、隙間を見つけて外を覗いていた。
ここならアルとテレーゼの姿が見える。二人とも既に臨戦態勢でスノーボアを待ち構えているな。
先ほど、近くの柵が破壊される音が聞こえたから……そろそろだろう。
…………あれ、なんか寒くなってきたような気が。
「ブルルルル……!」
そう思ったのとほぼ同時に、圧倒的な存在感がアルたちの向こう側からやってきた。寒いのは気のせいじゃない。こいつが冷気を撒き散らしているんだ。
たった1体で悠々と進んでくるその威容は、見る者すべてに根源的なプレッシャーを与えてくる。
一歩一歩、ゆっくりと。
しかし確実に近づいてくるソレは、やがて歩みを止めた。
間合いギリギリで対峙する両陣営。
「んじゃ、やりますか」
「久々の大物ね」
「さっさと片付けて、今夜はこいつの肉で宴会するぞ」
「ふふっ、ルインと約束したものね」
戦意を全身に漲らせていくアルとテレーゼ。
相対するは、遥か北の地からの侵略者スノーボア。
睨み合いは、ほんの一瞬。
村の命運をかけた戦いがついに始まった。
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