第30話 森の深刻な状況
「その無謀な勇気に対し、敬意を表し、話だけは最後まで聞いてやろう」
「ゼノビア殿、いい決断をされた。俺の話を聞くことで、破滅的な森の最後は回避できると確信している」
「ご託はいい。とっとと話せ。我々の生きる時は長いが、無駄な時間はない」
話を促されたので、落ちていた木の枝を指示棒代わりにして、説明を始めていく。
「では、ここを見てください。この魔素濃度のところを。これは死の森とゼノビア殿たちが住む森の境界付近で切り出した木の年輪から算出した成長の度合いを示したものです」
俺は大きな布に書かれたグラフの一点を指差した。
グラフはある地点から、急激に右肩上がりの傾向を示している。
「俺の計算だとおよそ三〇年前くらいから、この森の樹木は急激な速度で成長していると算定された。地中の養分と日光の量は死の森と変わらない。いや、霧がない分、多少日光の量はこちらが多いが、それにしても死の森と比べても異常な成長度だ」
「三〇年前、森をリゼルに焼かれ、この地に移ってきた我々が大切に木々を育てているからな。成長を促しただけであろう。別におかしなことではない。我々は先祖代々、ずっと同じことをしてきている」
ゼノビアの答えた内容に、森が焼ける原因があった。
きっとリゼルが焼いたとされる森も、焼ける要因が積み重なっていて、焼けるべくして焼けてしまった森だ。
俺は新たな数式に指示棒を当て、話を続けた。
「では、詳しく説明させてもらう。今、この森では若木が育たず立ち枯れ、間伐されず密生した巨木は過密な枝葉のせいで、風が吹けば折れた枝や散った葉が地面に積み上がっていく。これに間違いは?」
「ない。そんなことは森が成長すれば、当たり前に起きることだ。だが、若木は別の場所で育っているし、折れた枝や葉は土に戻って、再び栄養になる」
「たしかにゼノビア殿の言うことには間違いはない。そこで、普通の森とこの森の決定的な違いを示させてもらう」
グラフの一部を新たに棒で指し示す。
そのグラフは、枝や葉から抽出された魔素の含有量の比較だった。
死の森の木々も魔素をたっぷりと取り込んだ木ではあるが、ダークエルフたちの住む森の近くの木は、三倍近い魔素を含有していた。
ちなみに聖王国の普通の森から比べると三〇倍近い濃度になっている。
「それがどうした? 魔素濃度が濃くなるのは当たり前だ。我々は木々の成長を促進するため、大気中や地中の魔素を集約する儀式魔法をこの地に発動させているからな。だから、三〇年で立派な木々が成長している。それに高純度の魔素を帯びた巨木の枝は魔法の発動体として重宝している。我々は木々を育て、木々の恵みで生きておるのだ」
「そう、それだ。それこそが、森が焼ける可能性を高めている行為。ゼノビア殿たちはせっせと木々の周りによく燃える物を積み上げていると理解しているのか?」
「我々が焼く準備をしていると言いたいのか?」
魔素は大気中、地中、水中にも溶け込み、濃度の濃淡や濃縮こそされるが、普通に変質せずにただ存在している物質だ。
けど、魔素は魔力に触れると一気に変質する。
周囲の温度を上げたり、下げたり、帯電したり、毒の大気に変化したり、可燃性を獲得したり、爆発したりと、性質が変化する。
そんな魔素を多量に含んだ枝や葉が密生した木々だけでなく、地面にも積み重なっているのを放置しているのがゼノビアたちだ。
それらに何かの拍子で魔力が触れ、可燃性や爆発性を帯びてしまったのが、リゼルの起こした森を焼いた火事の真実だと思われた。
普通の森や死の森ならボヤで終わるくらいのことが、ダークエルフたちの育てた森では大惨事になる。
それを彼らに理解してほしかった。
「ええ、このままでいけば、数年以内に大規模な山火事、あるいは魔素爆発がこの森で起きます。確率は九割以上だ」
「馬鹿な……。そんなわけが……」
「長く生きてきた長老のゼノビアなら分かるはずだ。ダークエルフのやり方では森はよくて五〇年くらいしか持たないと。今までに何度、森を作っては焼いてきた?」
「たしかに、ダークエルフたちは、一つの森に定住せぬと父から聞いた覚えが」
定住したくても、定住できない生活しかできないでいるというのが正解だろう。
「くっ! 言わせておけば……。だが……」
「ゼノビア殿も薄々は感じていたはずだ。住み着いた森が定期的に焼ける理由を」
布に現された森が焼ける原因を指示棒で叩く。
ゼノビアの視線が、そこから逸れた。
動揺する長老の様子を見たダークエルフたちが、困惑の表情を浮かべていた。
「だから、原因さえ分かれば、対処は可能。俺はこの地に長くダークエルフたちに定住してもらいたいと思っている。もちろん、リゼル様もだ。そのための提案が『森林資源管理の一元化』だ」
俺は不敵に微笑み、さらにもう一枚の布を広げさせた。
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