桜の花が舞う頃に

柚木 梨空

プロローグ

春の風が温かく頬を掠める。

毎年、春になると必ずこの並木道を歩く。

三年前と同じ、満開の桜。視界一面に広がるそれは、まさに桜花爛漫という言葉がふさわしかった。

ただ、三年前と唯一違うのは、これを共有できる人がいないことだけで。

「……。」

近くにあった桜色のベンチに腰を下ろし、小さく息を吐く。

川のせせらぎが心地よく、春の陽気も相まって、思わず眠ってしまいそうになる。

都会の喧騒から離れ、子どもたちの無邪気な声や、鶯の鳴き声をぼんやりと聞いていると、

ふと、視界の端に誰かが映った。

道を挟んだ向こう側。

何気なく目を向ける。

――その瞬間、

自分の中で何かが、もう一度動き出す気配がした。

「……え」

思わず声が漏れる。

見間違えるはずがない。

あいつと同じくらいの背丈。

肩にかかるくらいの髪。

そして、道に迷うとどうしていいかわからず、少し慌てたように周りを見渡す仕草。

見れば見るほど、よく似ている。

似ている、なんて言葉で片づけていいのか、わからないくらいに。

心臓が、変な音を立てる。

あり得ない、そんなはずがない。

だって、

「あいつは三年前に、もう……」

いや、そんなことはどうでもいい。

一歩、もう一歩。近づくたびにそんな感情は薄れ、段々と確信に変わってゆく。

それと同時にあいつと過ごした日々が、風景が、感情が、後悔が、

それらすべてが鮮明に蘇ってくる。


これは、そんな僕とあいつとの桜のように儚い恋物語

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る