第11話 オークを美味しく食べるコツ
空間に漂う魔力が、一段と濃くなった。
それに見合ったモンスターが現れるということだろう。
──第五階層。
第四階層と繋がる階段のすぐ側には【転移の間】がある。
次回のダンジョンアタックに備え、俺は【転移石】に手を触れた。
これにより、到達階層がダンジョンシステムに記憶され、次回からは第一階層の転移の間から直接、この第五階層に来ることが出来る。
あまりの効率の良さに、思わず笑みがこぼれた。
【転移の間】から出て、スキル【感知】を発動させた。
人間よりも大きな生き物をターゲットにして、センサーを働かせる。
近くに反応は……ある。
大きな反応が一つ。
俺は呼吸を整えてから、静かに足を踏み出す。
十字路に達し、再び【感知】。
左の通路を進んだ先に、標的はいる。間違いない。
俺は鉄仮面を締め直し、空間魔法【アイテムボックス】を発動。揺らぐ亜空間の中から、短剣を取り出した。
オークの身体は分厚い筋肉と脂肪の層に覆われている。
ナイフで捌くのは時間が掛かる。短剣で大雑把に斬り分けるのがよい。
使い慣れて手に馴染む短剣のグリップをしっかり握り、通路を進む。
ダンジョン内の空気に、獣臭さが混じった。
思わず涎が垂れそうになった。
これは、間違いない。
オークだ。
近くにオークがいる。
短剣を握る手に更に力が入った。
「ブイイイ?」
通路の先。
オークが俺の気配に気付き、「何者だ?」とこちらを見た。
そして体ごと俺と対峙する。
体長は約二メートル。分厚い肉体は、食い出がありそうだ。
口腔に唾液がたまる。
オークは手に持ったメイスを肩に担ぎ、ゆっくりと俺に向かって歩き始めた。
随分と余裕がある。
既に何度か人間と戦ったことのある個体なのだろう。
そして、知っているのだ。
人間とはひどく脆い存在だと。
これは好都合だ。
緊張した状態のモンスターの肉より、リラックスした状態のモンスターの方が美味いというのは、異世界では常識だ。
王族向けの食材を調達するときは、わざわざモンスターに幻術をかけ、快楽に溺れさせて締める、なんてことをするぐらいに。
俺は旨みを引き出すために、一芝居することにした。
あえて怯えて、みせる。
「お、オーク……!? そんな馬鹿な……」
嘘っぽく後退りをすると、オークの顔が嗜虐心で歪む。
「ブヒ、ブヒヒ」
人間を甚振り殺してやると、ニマニマ笑いながら、近寄ってくる。
俺は情け無い声を上げながら、オークに背中を見せ、ゆっくり走って逃げる。
背後から、ドスドスと重たい足音が響いた。
十字路を真っ直ぐ進む。
その先は……行き止まり。
俺は壁に張り付き、ガタガタと震えて見せる。
オークが汚い笑顔を浮かべながら、メイスを振り上げた。
そして、俺の頭に向かって、力一杯振り下ろし──。
ビュン。
汚い笑顔を浮かべたままのオークの頭部が、宙を舞った。
俺は左から横薙ぎにした短剣を斜めに斬り下ろし、オークの右脚をそのまま切断。
刃を止めることなく、股にVの字を描くように跳ね上げる。
左脚の切断完了。
地面に転がった、頭、胴体、脚。
俺は胴体に短剣を振るい、腕を外す。
これで、しっかり血抜き出来るだろう。
背後では、俺の解体速度を捉えきれなかった監視ドローンが、その圧倒的な手際に恐れおののくように、呆然と空中に静止していた。
さて、調理開始だ。
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