雨宿りに飛び込んだ不思議なジャズバー。自分以外に客のいない店内で、バーテンは好みの曲をたずね聞き、音色に似合うレイニーブルーのグラスを差し出す。雨があがれば、数日が経てば、あの店は跡形もなく。その影にあったのは、ひとつの哀しい曲だった。
雨やジャズバー、カクテルの匂いが体へ侵入してくるときのイメージと物語の温度感のバランスが心地よく、まとまりのあるモチーフは天気の移り変わりを媒介にして、直接読後の感情へと突き刺さる。雨に打たれること。それは誰かの記憶や感情をその身で受け止めることなのだろうか。幻が消えていくときにわたしたちは雨の日を思い出す。素晴らしい物語をありがとうございました。