共同幻想最終決戦 四

 黒部にとって、警戒すべきは土師の極天のみだった。

 屋敷の搦め手自体は面倒ではあったが、致命傷になることはないという判断だった。

 黒部は土師の極天さえ避ければいいと考えていた。

 対して、土師。

 土師が言う方法とは、極天の連打を決めることであった。十発以上を同じところ、それも顔か胸に、極天を放ち続けること。

 しかしこれは体力というよりもLang-V枯渇という明確なリミットがある。

 打つまではできるだけ体力を温存したい。

 そのことを土師は屋敷に伝える。

「分かった。僕が黒部を引きつけよう」

 それと、と言って土師は屋敷にある要望を伝える。

 屋敷はそれを聞いて驚く。

「いいのかい? それをしてしまって」

「はい、できれば使いたくありませんでしたが、仕方ありません、でも本当に一瞬です」

「分かった」

 そう言うと、屋敷が先陣をきり、黒部との組み手に入った。

 そして、その後方から土師が組み手を援護する。

 黒部がアンプルを割り、作り出すものを、土師が消去する。

 土師は時間をかけて二対一のバトルを黒部に慣れさせた。

 そして慣れさせた後、土師は美月を呼んだ。

「美月!」

「はいはいさー!」

 美月を顕現させ、突如変則的に三対一のバトルに移行する。

 美月の拳が黒部にヒットする。

「極天!」

「こいつも極天を使えるのか!」

 しかし美月の極天は黒部の顔面に少し傷をつける程度にとどまった。

 そして黒部は美月の腕を掴み上げた。

「痛い! 変態!」

「美月もういい!」

 美月はその場で姿を消した。

 黒部は、美月という存在が今後どこからでも顕現してくる可能性があることは厄介だと思ったが、先ほどの極天を受けて美月の戦闘能力は無視していいと判断した。

 さらに屋敷も攻撃をいなすばかりで、全くこっちに攻撃をしてこないことに気がついた。

 屋敷も放っておいていいかもしれない。

 黒部はついに屋敷からも目を離し、土師にフォーカスする。

 土師はそれを見逃さない。

「美月」

「はいはいさー!」

 今度は黒部の上から美月が降ってきた。

「不動+融骨!」

 美月が溶けた体で黒部にのしかかる。そしてそのまま不動により、できる限り重くした体で黒部の体勢を崩す。

 その重さに耐えきれない黒部はその場に倒れ込む。

「へん! 私の得意技は不動なのである! 実はUnvoca内のどの適応者よりも重くなれるのである!」

 美月が得意げに言う。

「でも、それは女の子にとっては辛いことなのである……。それに不動が得意ということは誰よりも悲観的ということなのである……」

 今度は悲しそうな顔を浮かべ、そのまま姿を消した。

「誠! 今だ!」

 土師が空から極天を黒部に放つ。

 真上からの極天により、黒部を吹っ飛ばさず、地面に追い込んだまま極天を打ち続けることができる。

 黒部は咄嗟にレクシス体で土師に攻撃を行うもそれはことごとく消去された。

 ここで黒部は突然の閃きにより、体から腕を生やす。

 もしこの腕が自己強化の範疇に収まるのならば土師は消去できないはずだ。

 土師の打ち消しの力が無形のレクシスに対しては無効であることは分かっていた。

 そして黒部のその読みは当たる。

 土師は黒部に生えた新しい腕を消去できなかった。

 つまり、土師の脳は、黒部に生えた腕に対して無意識に自己強化の範疇であるということに合意したのだ。

 生えた腕は真上から降りてくる土師を掴み、逆に地面に叩きつけた。

 土師は血を口から噴き出す。

「レクシスとは奥が深いな!」

 黒部が勝利を確信する。

「ああ、でもほっとするのは少し早いかな」

 屋敷の声だった。

 地面に叩きつけたはずの土師の体はいつの間にか屋敷の姿に変わっていた。

「僕の自己強化のうちの一つ、『変化』。黒部、あんたが知らないとは言わせない」

 黒部は視線を宙に戻す。しかしそこには真上から降ってきた土師の拳がもう間近に迫っていた。


「極天」


 土師の全力の極天が決まる。

 そして、ここから土師の体力とLang-Vが尽きるまでの極天の連打が始まる。

「極天」

「極天」

「極天」

「極天」

「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」「極天」

 体力より先に、やはり頭が重い。

「極天」

 気を失ってはダメだ。ここで黒部を潰す。

「極天」

 手の感覚がない。剛身が弱まっているのかもしれない。でも構わない。

「極天」

 この血は黒部のものか、それとも自分の腕が裂けたものか。

「極天」

 あと一発。

「極天」

 もう一発。

「極天」

 土師は鼻血を出しても極天を撃ち続けた。

「極天」

 合計で、約十秒間、土師は極天を撃ち続けた。

 撃ち終わった時、土師の目は霞み、鼻血が垂れていた。

 黒部は動かない。

 薄れゆく視界の中でめちゃくちゃになった黒部の顔を覗き込む。

 その時、黒部の目がギョロとこちらを見た。

「極天」

 それは黒部の拳から土師に向けて放たれた極天だった。

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