共同幻想最終決戦 二

 屋敷は物心ついた時からISHSの力に目覚めていた。

 そしてその力によって、小学生の頃は親からも周りからも孤立して過ごしていた。

 しかし中学生となり、たまたま屋敷が授業中に指先から小さな火を出して遊んでいたところ、二人の生徒に見つかる。

「火!」

「火!」

 一人は女の子、もう一人は男の子だった。

 三人は顔を見合わせて、自分の世界が初めて他人と繋がる感覚をもった。

 そこから三人はずっと一緒にいるようになった。

 三人で話す中で、この力のこと、そしてこの力はどうやら同じ力を持つ者同士には見えること、少なくともこの学校にはこの三人しかこの力のことを認知できる人間はいないこと、先生や他の生徒に聞いても、家族や学校以外にもそんな人は見たことがなかったことなどを知った。

 それもそのはず、当時この力を検知することはできなかったし、適応者であっても通常の幻覚症と混同され、同じ力を持つ理解者がいなければ存在すら認知されなかったのだから。

 こうして三人の適応者が同じ地域に同じ時間に同じ学校で出会うことは奇跡以外の何ものでもなかった。

「お前の家のパパとママも、知らないって?」

「うん、でも私のひいおばあちゃん同じように幻覚見えるって言ってたらしい。でもひいおばあちゃんは私が生まれる前に死んじゃったし」

「とりあえず力について、俺らだけでも知っていることを話し合おう」

 放課後の集合場所は決まって女の子の適応者の家であった。理由は単純にその子の家が裕福で、いわゆる豪邸に住んでいたからであった。

「じゃあ逆に俺が作った火を、お前が消すこともできるんだな」

「消すっていうより、同じ場所に水と火があったら、普通消えるって私たちが思ってるだけじゃないの?」

「今度は僕が出した水で消せるかやってみよう」

「火や水以外に、鉛筆とかコップとか時計は作れないのかな」

「なんか、それっぽいものはできるけど、ちゃんと何でできてるかを理解してないから形が変になる」

「俺はドラゴンを作り出せるぜ! ほら!」

 ドラゴンが火を吹く。

「あんたそれ、リザードンじゃない! ポケモンの!」

「うん、俺リザードン好きだから。念じてたらいつの間にか出せるようになってた。ピカチュウも出せるぜ。あと、キャタピー」

「キャタピーはなんで……」

「可愛いじゃん」

「まあとにかく、何かを作り出すときは自分がよく知っていたり作り方を知っていないと、変な形になるか、すぐ消えちゃうんだね」

「アカデミーの頃のナルトの影分身みたいだね」

「もうあんたは黙ってなさい」

 そうして唯一無二の親友となった三人の時間は流れていった。

 中学最後の夏休みのある日、突然政府から「統合失調症患者同士における共同幻想」というタイトルでテレビ放送が行われた。

 それは統合失調症患者同士で共通の幻想を見ることがわかったという発表だけであり、緊急のテレビ放送で発表しなくてもよさそうな内容であった。

 しかし屋敷たちには別のものが見えていた。

 会見中ずっと、「もしこの症状に心当たりのある方は、東京都〇〇区2-10-1 B6Fまで」というテロップが会見場を常に漂っており、それについて記者からの質問が一切なかったのだ。

 間違いなくこのテロップはこの力を持った人にだけ向けられたメッセージであった。

 翌日、三人は集まり、早速作戦会議を開いた。

「おい、昨日の見たか」

「ああ、明らかに私たちと同じ力を使っていた!」

「どうする? 行くか? ここからそんなに遠くないよ」

「でも、行ったら捕まっちゃうかもしれない」

「それはどうだろう。結局この力は僕らの中でしか意味を持たないわけだし」

「そういう人を集めた新興の宗教団体があるとか?」

「いや、政府公式の発表だからそれはないと思う」

「じゃあ目的は?」

「保護……それか調査、研究?」

「そんな、動物みたいに。私たちどうなるの?」

「まあ、とりあえずすぐに行く必要はないと思うよ。また何か発表があるかもしれない。それにこの力を持っている人が僕らの他にいるって分かったんだ。それはつまり、この世界にはこの力を持った人がまだ不特定多数いるということなんだ」

 しかし、数週間も経たないうちに三人の中で、やっぱりそこに行こうという話になった。

 結局は三人とも子供だったのだ。

 休日になって、三人はテレビに映っていた住所にたどり着いた。

 そこは東京の中心地ではあったが、ビル自体は古い雑居ビルだった。

 そして一階には「言の葉の会」という児童館が入っていた。

 地下六階まで降りると、受付が目の前にあり、その奥に扉があるだけの簡単な作りの部屋だった。

 三人は恐る恐る受付に近づいた。

「あの、テレビを見てきたんですけど」

 受付のおばあさんは、なぜかナース服を着ており、名札には「林檎」とだけ書いてあった。

 この人の名前だろうか。

 おばあさんはこちらをギロッと見た。

「なんだね、三人とも見えるのかね」

「はい」

「友達かね」

「はい。中学の幼馴染で……」

「じゃあ住んでるところも近いのかね」

「はい……」

 受付のおばあさんは少し驚いた顔を浮かべたが、その後ふーんと言うと、受付奥にある扉を叩いた。

「お客さんだよ。子供が三人!」

「わかった。通してくれ」

 奥からおじいさんの声が聞こえた。

「入んな」

 受付のおばあさんが顔で合図を送る。

 言われるがままに三人が部屋に入ると、先ほどの声の主と思われるおじいさんが待ち構えていた。

「そこに座りなさい。遠かっただろう」

「いえ、遠くはありません、電車で来られるくらいの距離です」

 男の子の適応者がハキハキ答える。

「そうか、良いところに住んでるんじゃな」

「私は君たちが持つその力について研究していてね」

「おじいさんにもこれが見えるの?」

 屋敷はリザードンを出して見せる。

「ああ見えるとも。ピカチュウだったかな」

「リザードンだよ」

「そうか、ポケモンは孫に教えてもらっているんだけどね。あまり詳しくなくてすまない」

「雑談はいいからさ、早くこの力について教えてよ。あとなんで、私たちを呼びつけるようなことをしたの」

 男の子はおじいさんに聞く。

「ほお。最近の子供は話が早くて助かるね。単刀直入に言おう。私はこの力を研究する組織を作りたいと思っている。そして、この力を研究し、いつかこの幻想を現実世界に創り出したいと思っている。君たちにはそれに協力してほしい」

「現実にするってどうやって」

「この能力は実は脳科学、認識論と深い関係にある。この力を知ってからデカルトの省察は哲学的な言葉遊びに収まらず、ついに現実を構成する理論に昇華した。それは古武術では気の流れや、占いにおけるオーラの概念を取り込むようなものなんだ」

「は?」

「つまり、この力はこの力を持つものがどう思うかによって、如何様の力も生み出せるということに、私は気づいた。この前」

「この前かよ!」

「俺たちはずっと前からこの力を使えるぜ」

「でもそれは君たち以外には見ることも触ることもできないんじゃないか?」

「まあ、そうだけど」

「こっちにきて、私に触ってみなさい」

 おじいさんは自分の体を触らせようとした。

「何こいつ変態かよ」

「傷つくなあ。じゃあこれを見たまえ」

 おじいさんは『融骨』と唱えた。

 するとおじいさんの体がふにゃふにゃになりその場で布のようにペシャンコになった。

「何これ!」

 三人はこの異様な光景に恐怖と興味を持って反応した。

「次は『剛身』を見せよう」

 そう言うとおじいさんの体は元に戻った。

「この鉄パイプで私を叩いてみなさい」

 おじいさんが座っていたソファの横に無造作に鉄パイプが置かれていた。

 明らかにこのデモンストレーションのために置かれたものだろう。

「分かったよ」

 屋敷は鉄パイプを手に取り、思いっきりおじいさんの頭を殴った。

「いきなり頭!」

 女の子が驚く。

 しかし鉄パイプが当たってもおじいさんはびくともしなかった。

 それにもっと驚いたのは、鉄パイプが当たった時の音が、まるで金属同士がぶつかった音だったということだ。

「私もまだこの力について何ができるかわかっていない部分が多いが、君たちも鍛錬を積めばこれができるようになる」

 三人の目は輝いていた。

「君たちはいくつだ」

 おじいさんは服を着るとそう質問した。

「十五歳です。今は中学三年の夏休みで」

「そうか、であれば高校が必要だな……」

 おじいさんは呟く。

 そして決心したように三人に向かって話だす。

「君たちは若い。よってこの組織で本格的に研究をできる年齢ではないと私は考える。だから私はこれから高校を作ることにするよ。君たちが進路を決めるまでにね。もし高校が作れたら私の高校に入りなさい。君たちが一期生だ」

「ええ! 今から技を教えてくれるんじゃないのかよ」

「だったら、これから武道の習い事ということで週に一回ここに来なさい。技だけは教えてあげよう。今日帰ったら親御さんに相談してみなさい」

 それから三人は親に伝え、週に一回このおじいさんから力の使い方を教わるようになった。

 また、おじいさんは三人に力の使い方を伝授するとともに、並行して認識障害の人たちを支援する財団を立ち上げ、半年で本当に高校を作った。

 そして晴れて、三人は一期生として、その高校に入学した。

 それから高校卒業まで三人はともに過ごし、高校卒業後はそのおじいさんを含め数人の仲間とともに「間主観性幻覚症:Inter-Subjective Hallucination Syndrome(ISHS)」に関する総合研究機関「Unvoca」を設立した。

 その後は、屋敷は三対と一つからなる計七つの自己強化体系の整理と適正判別方法の開発、幼馴染の女の子はLang-Vの発見、そしてもう一人の幼馴染の男の子は幻想を現実に変える媒介文字列の発見を行い、程なくしてレクシスの発明と繋がっていった。


 そして、レクシスの発明の直後、屋敷の幼馴染の男の子は、Unvocaの所長・黒部によって殺された。黒部––––それは、かつて三人を組織に勧誘し、高校を立ち上げ、力の使い方を教えたあのおじいさんだった。

 そして黒部は屋敷の幼馴染の男の子を殺害後、研究資料を持ち出し、この組織を去った。

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