第8話 リーリャ、朝チュンする

 翌朝、リーリャが目を覚ましたのは午前7時を回った頃だった。夜9時に布団に入ったところでその時間通りに眠るわけはなく、疲れて時計も見ずに眠ってしまったため何時間眠れたのかはわからない。ただ、ここ数日の睡眠から考えると、幸福感と適度な疲労の中での睡眠は心地よいものであった。

 昨晩意識がなくなるまでずっと隣にいたはずのフィリーの姿がなく、はだけたパジャマを直しながらベッドから起き上がると、窓際のソファーに座って優雅に紅茶を飲む彼女の姿があった。


「いい朝だニャあ……」

「ほんとね。おはようリーリャ」


 窓の外、王宮の上に見えるのは、雲ひとつない青空だ。昼間になって気温が上がれば魔道具により室内は冷やされるが、朝であれば窓を開ければ放射冷却により冷やされたさわやかな空気が室内の湿気た暑さを吹き飛ばしてくれる。


「すぐ朝食だから。寝癖直してあげようか?」

「自分でできるニャ」


 ベッドから降りてその横の扉をくぐって洗面所に向かう。すでにフィリーが使ったのか、洗面所は少し濡れていて、昨晩使った歯ブラシを手に取ると歯磨き粉を付けてまずは歯を磨く。

 シャカシャカと狭い洗面所に音に混ざって、高い位置に付いた横すべり出し式の小さな窓からは、朝食の準備をしている音が聞こえてくる。食器と食器がぶつかる音、ワゴンがガラガラと動く音。こうした人々の生活を感じる音色は猫獣人の耳には良く聞こえ、リーリャのお気に入りであった。

 リーリャは癖っ毛で寝癖が非常に強く付く。歯磨きが終わった後は軽く顔を洗うと櫛を使ってまるでライオンのたてがみのようになっている髪の毛を丁寧に梳かしていく。時々手を水で濡らして髪の毛に付けてみても、リーリャの髪の毛はなかなか落ち着かず、お風呂のときのようなストレートにしようと思っては大分時間が掛かってしまう。

 そのためある程度重力に従うようになったところでやめてしまう。見た目は少し癖っ毛な毛量の多いボブといった程度で、ライオンのたてがみほどではない。聖女時代の友人曰く、リーリャの性格と同じで少し癖がある方がかわいい。とのことだ。


「うん、良くなったわね。かわいいよ」


 ある程度の身支度が終わって洗面所から出ると、ソファーの肘掛けに肘を乗せてくつろぐフィリーの姿があった。彼女の私室とは違い、2人用のソファーが一個しかないこの部屋では、必然的にリーリャは彼女の隣に座ることになる。


「ウチもフィリーみたいに直毛なら良かったんニャけど……」

「私はリーリャのふわふわの髪好きよ」

「う~ん、まぁならいいかニャあ……」


 右手の人差し指で髪をくるくるとやるが、指を離すとあっという間に元の癖っ毛に戻ってしまう。フィリーの髪でそれをすると最終的には戻ってしまうものの、リーリャと比べてその戻る速度は少し遅く見える。手ぐしで簡単に梳かせるフィリーの髪を、リーリャはうらやましく思っていた。

 そんな髪を脇腹辺りまで伸ばす美しい少女は、隣に座ったリーリャの肩にもたれかかるもしっくりこなかったようで、そのまま両手両足をソファーに付けながらのそのそとリーリャの膝の上までやってきた。

 そして向かい合わせになるように膝の上に座ると、リーリャのほっぺにキスをする。


「ニャんかいつもより積極的ニャね」

「これからずっと一緒にいられるのがうれしくて。ついね」


 そんな彼女がリーリャは愛おしくてたまらない。まるでただのバカップルだニャあ……、と思ってもそれを口に出すことはない。

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