くしゃみで滅ぶ世界12 ~祈りでは間に合わない世界~

■前回までのあらすじ


薬が使えなくなった世界。


人類はついに、“科学的対処”を諦めた。


代わりに頼ったのは――


祈祷、呪術、回復魔法。


「魔法なら、副作用はない」


「神に祈れば、救われる」


かつて“非効率”とされていたものが、

再び主役となる。


意外にも、それはうまくいっていた。


軽度の不調は祈りで和らぎ、

慢性的な症状は回復魔法で緩和される。


「……なんとかなるな」


人類は、再び“耐えられる世界”を手に入れた。


そのとき。


「では、“即時性”を試そう」


魔王ヴェルデが、新たな実験を開始する。


■第十一次災害:蜂毒アナフィラキシー


最初の犠牲者は、あまりにもあっけなかった。


「……ん?」


一人の農民が、腕を押さえる。


そこには、小さな針。


「蜂か……」


誰もが、よくあることだと思った。


次の瞬間。


「……息、が……」


崩れ落ちる。


■理解の遅れ


「回復魔法を!」


慌てて詠唱が始まる。


だが――


「間に合わない!」


数十秒。


それだけで、状態は急変する。


・呼吸困難

・意識低下

・全身反応


「早すぎる……!」


■本質の判明


「アナフィラキシー……!」


研究者が叫ぶ。


「過剰な免疫反応が、一気に全身へ……!」


つまりこれは――


発症した時点で、ほぼ詰み。


■祈りの限界


「祈れ!早く!」


だが祈祷は、時間がかかる。


集中が必要。

準備も必要。


「そんな余裕、ない……!」


回復魔法も同様だった。


「詠唱が間に合わない……!」


今までの敵は、“耐える”ことでどうにかなった。


だがこれは違う。


耐える前に終わる。


■拡散する恐怖


「外に出るな!」


指示が飛ぶ。


だが問題は、そこではなかった。


「都市内にも……蜂が……?」


完全密閉のはずの都市。


だがわずかな隙間、搬入物、植物。


そこから侵入し、繁殖していた。


つまり――


どこにも安全地帯がない。


■日常の崩壊


「……もう外出れない」


「いや、中も危ないだろ」


人類は気づく。


これは花粉ではない。


“当たったら終わり”の世界。


■魔王の観察記録


ヴェルデは静かに記す。


「蜂毒は“即時致命型兵器”」


「人類は“時間の猶予”に依存している」


「対処時間を奪えば、あらゆる手段は無意味になる」


彼は小さく頷く。


「非常に分かりやすい」


■人類の対抗


防護服が開発される。


・完全密閉

・刺されない構造


だが――


「暑い……動けない……」


ここで再び、温度問題が牙を剥く。


さらに――


「常時着用とか無理だろ……」


結局、人類はこうなる。


運ゲー。


■精神の限界


「……もう嫌だ」


誰かが言う。


「何もしてないのに、死ぬ可能性あるって何だよ……」


それは、これまでで最もシンプルな絶望だった。


■エピローグ


魔王は静かに呟く。


「面白いな」


「ゆっくり削るより、“一瞬で終わる”ほうが恐怖は強い」


彼は次の実験を考え始める。


■最後の一文


人類はついに理解する。


どれだけ対策しても――


“一瞬で終わる可能性”があるだけで、世界は成立しなくなる。

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